シリコンバレーで起きている「食の異常事態」 普通のレストランが消えつつある

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ストール夫妻はサンフランシスコで4軒、シリコンバレーで2軒のレストランを経営しているが、シリコンバレーの店舗は2年前の開業以来、つねに人手不足の状態だ。以前は部門シェフを募集する際は一定の経験を求めていたが、「今ではスタッフ採用のために、口コミサイトのクレイグリストにブタをさばいたりソテーしたりしている料理人の写真や、美人ウェイトレスの写真を載せて店を売り込んでいる」とストールは言う。

昨年も、腕のいいウェイターなど何人ものスタッフが夫妻の店をやめてサンフランシスコのツイッターやAirbnbに移った。夫妻はできるだけ報酬を引き上げたが、シリコンバレーの店ではサービス要員の不足により、店の一部に客を入れられないこともしばしばだ。

最近では14歳の娘とその友達をバイトとして招集するようになった。「自前で労働力を育てているわけだ」とストールは冗談を言う。

ロボットに取って代わられる?

ピッツェリア・デルフィナのすぐ近くにある「ビノ・ロカーレ」は家族経営のワインバーだ。経営者のJ・C・アンドレードによれば、前任の料理長はフェイスブックに移ったという。そこでアンドレードたちは給料を引き上げ、確定拠出年金にも加入できるようにしたが、フェイスブックやグーグルは店のオーナーであるアンドレードの収入を上回る給与を提示している。最近では、15歳の弟に頼んで人手不足の穴を埋めている。

昨年、ベンチャーファンド「ソーシャル・キャピタル」の創業者であるブリジット・ラウとチャパト・パリハピティヤは、パロアルトのダウンタウンにおしゃれなレストラン「バード・ドッグ」を開業した。2人に資金を提供したのは、若くて革新的で比較的手ごろなサンフランシスコ・スタイルのレストランの開店を熱望するシリコンバレーの投資家たちだった。

こうした投資を受け、かなりの自己資金があるにもかかわらず――パリハピティヤは全米プロバスケットボール協会(NBA)のゴールデンステイト・ウォリアーズのオーナーの1人だ――パロアルトでのレストラン経営は肝が座っていないと不可能だとラウは言う。

「私は新興企業のコミュニティを応援しているのであって、踏み台にするつもりはない」と彼女は言う。

パロアルトのダウンタウンを歩いていると、キューバ風豚肉のブレゼといった季節メニューで道行く人の目をひくレストランがある。だが社員証もないのに中に入ろうなどと思ってはならない。ここはパランティア・テクノロジーズ社の社員専用レストランで、人手も十分にそろっている。パランティアは非上場のソフトウエア会社で、調査会社プリブコーによればダウンタウンの賃貸オフィススペースの12%を占めているという。

最近できた誰でも利用できる店の1つが、マウンテンビューに近い「ズーム・ピッツァ」だ。ここではロボットがピザを作っている。ズームはパロアルト市内に配達をしているが、数年のうちに自動運転車を使うようになるだろう。

パロアルトの目抜き通りでは、大人くらいの背丈でてっぺんに液晶画面がついた「ビーム」というロボットが道行く人に声をかけている。画面にはバミューダ諸島やカンザスシティーといった遠隔地にいる本物の人間の顔が映っており、ロボットを販売している店へといざなっているのだ。店内には「売り子」のロボット以外、誰もいない。

「冗談で、そのうちみんなビームみたいになるんじゃないかって言ってるよ」と、ワインバーを経営するアンドレードは言う。「誰かがロボットにお盆を持たせるのも時間の問題だ」

(執筆:Nicole Perlroth記者(c) 2015 New York Times News Service、翻訳:村井裕美)

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