シリコンバレーで起きている「食の異常事態」 普通のレストランが消えつつある

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米国には多いピザショップもシリコンバレーでは貴重な存在に(写真:Jason Henry/The New York Times)

「ここでは従来型のレストランは近い将来絶滅するだろう」と語るのは、パロアルトにある「ハウイーズ・アーティザン・ピッツァ」のオーナーシェフ、ハワード・バルカだ。「パロアルトは商売が難しすぎる。傷が浅いうちにここを出ようとか、商売そのものをやめてしまおうとか考えている人がたくさんいる」

儲けがあまりに少ないので、賃上げをしようにも限界がある。一方で、パロアルトで生活していけるだけの給与を支払うのは大変だ。賃貸物件検索サイトのレント・ジャングルによれば、パロアルトにおける1ベッドルームのアパートの平均賃料は2800ドルで、ニューヨークとほぼ同じなのだ。

また、以前ならばクパティーノやサンノゼといった比較的家賃の安い周辺の町に住むこともできたが、そうした町でもIT企業の従業員が増えているために1ベッドルームのアパートの平均家賃は2500ドルを超えている。

客の奪い合いよりスタッフの奪い合い

パロアルト市の都市計画部によれば、店舗の平均賃料は1平方メートルあたり約79ドルで、4年前と比べて60%以上高くなっている。また、借り手はビルの改修費用なども負担させられる。

パロアルト市はレストランから、歩道や街路樹のメンテナンス費用や駐車料金を徴収している。たとえば店舗の広さが93平方メートルを超える場合、レストランは4台以上の駐車スペースを用意するか、1台につき6万3848ドルを駐車料金として支払う必要がある。4台分で25万5392ドルという額は米国ではほかに例がない高さだ。

人気レストランの場合、賃料や保険などの入居関連コストは総売上の4~6%であることが多い。だがパロアルトでは12%に達するという。

「経営という観点から言えば壊滅的だ」とバルカは言う。「収益性に問題がある。以上だ」

「スタッフ募集」の掲示は街のあちこちで見かける。つい先日も、花屋の店先にはこんな貼り紙があった。「店長に電話を。人手不足で店の運営にも支障をきたしています」

フローズンヨーグルトとカップケーキと紅茶の店や、カウンター越しに注文するサラダ・ステーションなど、ファストフードと普通のレストランの中間に位置し、少ない人手で商売できる「ファストカジュアル」の店が、昔ながらの家族経営のレストランに取って代わっている。

ほかにも有名な寿司チェーンの「ノブ」がパロアルト進出を計画している。また、サラダチェーンの「スウィートグリーン」はベンチャーキャピタルから9500万ドルの出資を集めた。これでパロアルトでの営業コストを他支店の売上で埋め合わせることができる。

もっともそんな運のいい店ばかりではない。「現時点では、客の奪い合いよりスタッフの奪い合いのほうが激しい」と語るのは、食のアカデミー賞とも言われるジェームズ・ビアード賞を受賞したシェフのクレイグ・ストールだ。ストールは妻とともに「ピッツェリア・デルフィナ」という店を経営している。

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