そこで、補正予算を編成して財政支出を増加することが考えられる。「成長のためには設備投資が必要。そのために大規模な投資減税を行う」「強靭な国家を作るために、公共事業を大幅増額する」「豊かな国民生活のため、消費税増税は撤廃。所得税を大減税する」などという政策が打ち出された場合、誰も反対しないだろう。むしろ、世論は大歓迎するのではないだろうか?
前述のように、日銀のネット国債購入予定額は、予算上の新規発行額を7兆円強超えているから、国債市場に負担をかけずに、国債発行額を7兆円強増やせるわけだ。これは、12年の名目GDP476兆円の1.5%に当たる。これだけの支出増ができるなら、経済に大きな影響が及ぶだろう。しかも、これで終わりではない。市場が追加緩和を求めれば、日銀は国債購入額を増大し、支出をさらに拡大することも可能になる。
財政インフレを起こせば2%目標を達成できる
この連載で指摘してきたように、金融政策の範囲内では、マネタリーベースをいくら増やしても、銀行貸出が増えないので、経済活動は活性化せず、2%の物価目標は達成できない。
先に見たのは、金融政策ではなく、財政拡大政策である。そして、財政法第5条(日銀引き受け国債発行の禁止)をすり抜ける措置だ。しばしば「日銀が輪転機を回して紙幣を刷り、それをバラまけばよい」と言われる。しかし、日銀は金融機関なので、バラまきはできない。バラまくのは政府である。日銀引き受けは(あるいは、今回の措置は)、そのための財源を調達する方法だ。
これまでも、財政拡大の圧力はあった。しかし、国債発行の増加とそれによる金利高騰が、それをチェックしていた。その歯止めが、今回の措置で外されたのである。
財政政策は国会の承認を要するから、この政策は原理的にはチェックできる。バラまき膨張予算を阻止すればいいのである。ただし、現実にチェック機能が働くかどうかは、大いに疑問だ。これについては後で述べる。
日銀引き受け国債発行が法律によって禁止されているのには、理由がある。支出がとめどもなく増加して、制御できないインフレに陥る危険があるからだ。
財政支出を増やしても、民間経済主体が逆の行動を取り、経済全体の財・サービス購入が増えない場合もある。ただし、政府が直接に財・サービスを購入すれば、経済全体の支出は必ず増える。公共事業はその例だ。「賃金や資材が高騰して補正予算が消化できない」と言われる。しかし、それは従来の単価にこだわるからだ。それを引き上げればよい。それによって物価や賃金が上昇する。
財政拡大を行い、その財源を金融政策で用意するという方式を取れば、原理的にはどんな物価上昇率も実現できる。問題はむしろ、インフレがコントロールできなくなることである。戦慄するような未来像が、いまや現実の可能性として見えてきたのである。
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