北海道新幹線、利用者倍増で意外な落とし穴 「嬉しい誤算」だが地元には課題も浮上

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函館市・湯川地区のホテルをかすめる旅客機。空路も従来の利用水準をほぼ維持している

真夏の函館市は、訪れるたび、人でごった返していた。今年に入って中国との定期空路が相次いで運休し、インバウンドの観光客が減っているとされるが、聞こえてくる会話の何割かは、日本語以外の言語だ。「海外からのお客さまが減った分を上回るお客さまが、東北から訪れているようです」と函館商工会議所の永澤大樹・新幹線函館開業対策室長。

函館商工会議所が独自に概算した資料によれば、3月26日の開業日から8月31日までの期間に北海道新幹線を利用した人は122万6000人余り。前年の在来線時代から81%増加した。

一方、空路の羽田―函館便は同じ期間、前年並か、やや下回る程度の利用水準を維持している。さらに、4~8月の青函航路のフェリー利用者は前年より3割ほど増えた。各観光施設や宿泊施設、観光バス路線の利用も軒並み、前年を上回っており、少なくとも観光面では、函館市やその周辺は大きな経済的恩恵を受けている。

函館駅前では、デパートの跡地に16階建ての「キラリス函館」の建設が進む。上層階は分譲マンション、中層階は公共施設、そして2階から地下1階は飲食店などが入居する複合施設だ。1階部分が7月29日に先行オープンし、観光客や地元の人々で混み合っていた。公共施設部分は今月、マンションは2017年3月の使用開始を目指す。このほか、行政・商業機能が集中する五稜郭地区でも、分譲マンションが入居する19階建ての複合商業施設が建設されており、やはり2017年3月のオープンを目指している。

人材確保に「落とし穴」が

函館市・湯川地区の「函館アリーナ」

函館市は新幹線開業に先駆けて2015年8月、温泉街を抱える湯川地区に、5000人規模のスポーツ大会やコンベンションに対応できる施設「函館アリーナ」を開設していた。筆者が訪れた日も、地方自治体の全国規模の大会の会場となっており、施設前に止まる路面電車は、その参加者で文字通り埋まっていた。五稜郭など他の観光施設でも、大会の参加者らしき人々を見かけ、コンベンションの集客力や波及効果を実感した。

順風満帆に見える函館市だが、意外な困惑が現地に広がっていることを知った。聞き取りによると、宿泊施設の需要が逼迫し、価格が高騰する一方で、施設の老朽化、何よりも従業員の確保が大きな課題になっているという。地元で人材を確保できないため、首都圏の派遣会社などに頼らざるを得ず、そのコストによって、せっかくの利益が帳消しになってしまう例もあるらしい。

人材確保の難しさは、北陸新幹線沿線の富山県などでも耳にした。新幹線開業が各地であらわにする、労働力やマンパワーの確保の隘路(あいろ)――。あらゆる地域施策が「人口減少・高齢・少子社会」に向き合わざるを得ないという現実を、あらためて突きつけられた気がした。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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