「働き方改革」に見える「ゆとり教育」と同じ轍 そもそも少子高齢化は克服すべき問題なのか

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常見:破綻している国が上にきているのに、それに対してメディアも何も異議を唱えない。「日本の労働生産性は低い」という言葉のひとり歩きには気をつけなくてはなりません。たしかに、この計算の仕方だと低くなってしまうのですが、付加価値額と労働投入量という基本的な部分をみて議論しないといけない。

正しい「働き方改革」を起こすために

「働き方改革」が、日本における空前の愚策にならないように見張っていきましょう

おおた:日本の場合、かつては終身雇用や年功序列を約束してくれた会社がセーフティーネットでした。

でも、それがすでに崩壊してしまったことをみんな知るべきです。国が「働き方改革」を目指すなら、僕は今まで企業が代替してきたセーフティーネットの役割を国に果たしてほしい。それが実現できれば、みんなが自由な働き方やチャレンジングな活動ができるじゃないですか。

常見:しかし、やはり優先順位もあります。「少子化には歯止めを掛けないといけない」という議論と、「いやいや少子化だからもっと教育など子供関連の予算を下げてもいい」という議論がせめぎ合っているじゃないですか。それをどう決着するのかという議論がありますよね。

おおた:お上に決められた通りに働くのではなく、一人ひとりがどんな暮らし方をしていきたいのかをまず考えるべきです。そしてそれを実現するための大きな方向性のなかで、この「働き方改革」をやるべきです。

「すべての夫婦がフルタイムで働くような社会を目指しましょう」というような、画一的な価値観へのアンチテーゼとしてこれを言いたかった。

常見:わかります。「働き方改革」が、日本における空前の愚策にならないように見張っていきましょう。

「働き方改革」とは、所詮「働かせ方改革」である。このような冷めた視点をわれわれ労働者は持つべきではないかと思っている。長年、問題となってきたことに国を挙げて取り組もうとしている点は評価に値する。しかし、これは労働者にとってどうなのかという視点をわれわれは失ってはいけない。そして「いかに働くか」だけでなく「いかに働かないか」という視点も大事ではあるまいか。
さて、あなたは1日何時間、週何日働きたいだろうか。実はこれこそ、私たちが議論しないといけないことではないか。「働き方改革」で議論しなくてはならないのは、次の社会システムをどうするかということだ。今の議論は昭和の延長にしかなり得ない可能性がある。労働者視点で考え、主張する勇気を持とう。

 

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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