ニューヨーク近郊の列車事故はなぜ起きたか 未熟な技術や「組合問題」が遠因という報道も

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力学的には不安定でも、連結器に工夫があるので乗車していても違和感はない。ブレーキの「遅れ込め制御」も一応できている。だが、今回の事故の場合、最後尾から重たい機関車がプッシュする慣性質量が大きいために、軽い客車がいとも簡単にホームに乗り上げていったという見方など、「プッシュ・プル方式」の欠点が出たという専門家もいる。

特に今回の編成は、客車4両を後ろから重量級の機関車がプッシュしていたわけで、重量配分として異常であったということはいえる。

一方で、不幸中の幸いだったのが、先頭車両も含めて事故列車の乗客のダメージが限定的だということがあげられる。驚かされたのは、先頭車両が綺麗に原形を留めていることだ。

この客車はアルストム社の「コメット5」という北米仕様のものだが、かなり剛性が高められているという印象を受ける。「鉄道というのは衝突するもの」という野蛮なカルチャーの産物と言ったら言い過ぎか。

相互乗り入れしない不思議

ちなみに、ニューヨークへの通勤の大動脈がどうして、この駅での「乗り換え」を強いているのかというと、地理的にマンハッタン島の南端に行くにはフェリーが便利ということもあるが、鉄道同士の「ニュージャージー・トランジット」と「パス・トレイン」の間で相互乗り入れ(相直)ができていないからだ。

では、どうして相直できないのかというと、軌間はどちらも標準軌なのでいいのだが、郊外のニュージャージー・トランジットが空中架線方式(交流電化)である一方で、パス・トレインは第三軌条方式(直流電化)、つまり東京の銀座線や丸ノ内線のように第三のレールから電気を取り入れる方式をとっているからだ。

そんなものは統一してしまえばいいように思われるが、パス・トレインを架線式にするには、ハドソン川の川底トンネルの天井を高くするなど大工事になり不可能ということで、現在に至っている。

最終的な原因究明は事故調査委員会の判断を待つ必要があるが、現段階の筆者の印象としては、今回の事故の背景には、アメリカの鉄道における技術と意識の遅れ、そしてインフラの未整備といった要因があると言わざるを得ない。

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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