ニューヨーク近郊の列車事故はなぜ起きたか 未熟な技術や「組合問題」が遠因という報道も

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まず、アメリカで言う「アクティブ・セーフティー」つまり自動列車停止装置、日本で言うATSもしくはATCのようなシステムが採用されていなかったという問題がある。国の規制では、時速127キロメートルを超える速度で営業運転をする鉄道路線には設置が義務付けられている。このニュージャージー・トランジットに対しても再三にわたって、採用するよう勧告がされていたが、設置されていなかった。

一方で、同社はGPSを使った列車管制を導入し始めており、ここ数年は定時運行の比率が向上していたのは筆者も実感していた。一番大事なATSが設置されていないというのは、背景に根深い問題があるのかもしれない。組合が「機械に命令される」のを嫌って導入に反対し続けているという報道もあるが、真相は分からない。

アメリカの鉄道事故の場合、いつもそうなのだが、組合が非常に強い権限をもっているために、運転士の立場を防衛することが優先されて、事故原因などの情報公開が遅れる傾向がある。今回もそのような気配が出てきている。

機関車が客車を後ろから押す

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ニュージャージー・トランジットの主力電気機関車であるボンバルディアのALP46(筆者撮影)

メカニカルな問題もある。このニュージャージー・トランジットは、就役して40年近い一部の車両には「電車タイプ」のものもあるが、郊外型の通勤列車であるにも関わらず「客車」を機関車で駆動するというタイプが圧倒的だ。

理由としては、エネルギーコストが比較的安い国なので、省エネに無頓着ということがあり、また電車と違って機関車+客車の場合はメンテナンスが容易だということもある。

さらに、「アメ車」的な発想といえばそれまでだが、5000KWとか6000KWといったバカみたいに強力な電気機関車ばかり持っていて、1台で「2階建て客車の10両編成」を駆動することもある。パワーへの執着とでも言える一種のアメリカならではのカルチャーである。

アメリカの郊外列車では一般的に、方向転換時に機関車の付け換えをしない。ニュージャージー・トランジットでも同様で、編成の西側に機関車を連結し、西行の場合はプル(牽引)として、東行(今回のケース)の場合はプッシュ(押す)方式で列車を走らせる。そのために、客車の多くには運転台が設置されており、先頭が客車の場合はその運転台から最後尾の機関車を遠隔操作することになっている。

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