――経営は順調なんですね。小学校から高校までの勉強を教えること自体は、本当にライフワークにできそうですか。受験勉強に懲りた僕には考えられない職業です。
勉強内容というよりも、いろいろな学年の子どもと泥臭く付き合っていくのが面白いですね。みんな遊びたいのを我慢して勉強しているんです。お母さんから「うちの子は嫌々に勉強している」と相談を受けたときは、「誰でも勉強は嫌いです」と伝えるようにしています。そうすると子どもは安心しますから。そのうえで、「一度に全部やる必要はない。小さくバラして毎日少しずつやっていこう」と提案します。
葛藤する親子といっぱい話し合いながら、「勉強は一生続く。前向きに勉強して、学んだことは使おう」というメッセージを伝えているつもりです。コンピュータと向き合っていた頃にはできなかった「人間同士のぶつかり合い」が、今は毎日実現できています。
理想と経営、両立させることの難しさ
松下さんが塾の開業時に掲げた理念は、「知性が楽しく発達する場を提供し、豊かな知識社会の発展に貢献する」だ。具体的には「インド人エリートに負けない知識人を養成する」ことだろう。郊外の小さな学習塾とは思えない志の高さだ。愛知県的なエリートコース(名古屋大、東大→トヨタ、JR東海、中部電力)だけが目標ではない。そのため、有名校の受験を生徒に推奨することはせず、一人ひとりが本当の志望校に入り、学び続けることを重視している。
ただし、理想を追求するには経営基盤も重要だ。学生時代から名古屋で暮らし、妻が名古屋出身で、小学生の息子がいて、「もはや名古屋に土着した」と笑う松下さんは、地の利を生かすことを選んだ。名古屋のベッドタウンでは子どもの数が増えていて教育熱も高いことは、家族で住んでいれば自然とわかるのだろう。「少子化の時代だから教育産業は厳しい」という事実は日本全体の傾向に過ぎない。地域と自分自身を丁寧に見ていれば、家族を養うぐらいの商機は見つかるのだ。
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