「ドラゴンボール」を欧州に広めた男 日本アニメ輸出の第一人者、アニマックス滝山社長に聞く

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たきやま・まさお 1975年フジクリエイティブコーポレーション入社後、「鉄腕アトム」筆頭に虫プロダクション制作アニメを中心としたテレビ番組のアジア圏での販売を手掛ける。81年設立された国際部に所属し、世界各国のマーケットに進出。98年ソニー・ピクチャーズテレビジョン・ジャパン入社。現職は、ソニー・ピクチャーズエンターテインメント業務執行役員、アニマックスブロードキャスト・ジャパン社長、AXNジャパン社長、ミステリチャンネル社長。

――海外マーケット、特に欧州と米国の開拓には、大変な苦労があったのでは?

それが、それほどの苦労はなかったんですよ(笑)。なぜかというと、各国で新しいメディアが起ちあがるときに合わせて、番組を売り込むことができたからです。私が世界を相手に日本アニメを売り込み始めた80年代は、欧州で民間放送局(民放)が開局した時期と重なっています。

それ以前は、イギリスのBBC、ドイツのZDF、イタリアのRAI、フランスのRTF、スペインのRTVEなど公共放送局しかありませんでした。開局したての民放には番組を制作する能力も資金もありません。放送する番組を買わなければならない。子ども向け番組といえば、米国のウォルト・ディズニーとワーナー・ブラザーズの番組が考えられるけれども、2社のアニメは公共放送がすでにライセンスを取得している。新興の民放は手が出せないんですね。

そこで目を付けたのが日本アニメでした。結果、欧州の新興放送局は日本のアニメを買い付け、プライムタイム(夜の看板番組が放送される時間帯)で放送したら想像以上にヒットした、というわけです。ベルルスコーニが、フランス、ドイツ、スペインで次々と民放を開局し勢力を拡大していた時期と重なったことも、日本アニメ輸出には追い風となりました。イタリアでの成功に倣って、一時期は各国でプライムタイムに日本アニメが放映されていました。

芸術性のあるアニメを制作できるのは日本と米国ぐらい

――宮崎駿作品や亡くなった今敏監督の「パプリカ」「東京ゴッドファーザーズ」(滝山氏はプロデューサーとして制作にも参加)など、フランスでは、芸術の1つとして評価されているアニメもあります。

大人が支持するほどの芸術性をもったアニメを制作している国はほとんどありません。アニメ、ゲーム、映画など日本のコンテンツ産業の市場規模は米国に次いで世界第2位の規模で、そもそも、アニメを一国で消費できるマーケットがあるのは、日本と米国だけだからです。

芸術性を評価される日本アニメの発端は、日本初のテレビアニメシリーズ「鉄腕アトム」にまでさかのぼります。「鉄腕アトム」を制作した虫プロでは、米国のディズニーのように、できるかぎり自然な動きを追求し、細部の動きを表現する“フルアニメ”の、1秒24コマを制作する作業量を人員的にも経済的にもこなせなかった。

そこで、絵の制作枚数を大幅に減らし、制作費や制作時間を削減することができる“リミテッド・アニメ”の手法を採用したという経緯があります。このリミテッド・アニメの手法が、その後の日本アニメ制作に大きな影響を与えています。つまり、動きを簡略化した分、ストーリーや編集による表現方法に磨きがかかったんですね。

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