マツダが劣勢の北米に投じる「CX-9」の実力 クチコミを意識した生き残り戦略とは?

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CX-9に搭載されるエンジンは、2.5リッターのガソリンターボ。アテンザなどに搭載されている自然吸気エンジン「SKYACTIV-G 2.5」をベースに、理論空燃比での動作領域を広げるクールドEGRを搭載するターボを組み合わせた新エンジンは227馬力。300馬力オーバーが当たり前の同クラスでは、かなり控え目な出力しか持たない。

しかし、毎分2000回転から420Nmのトルクを発生。これはマツダ製2.2リッターターボーディーゼルとまったく同じ数字である。この性能を実現するために、低回転域では排気ポートからターボへと導く流路を低回転域のみで絞り込み、ターボラグを感じさせず、低回転からトルクがリニアに立ち上がる可変メカニズムを開発した。

実はこのエンジン仕様も、綿密に北米市場を見据えて決めたものだという。

高出力にこだわらず、低回転域からの実用トルクを重視したエンジンが必要なだけならば、SKYACTIV-D 2.2をベースに開発すればいい。しかし、ご存じのようにディーゼルエンジン搭載の乗用車は、北米では欧州ほど受け入れられていない。不正燃費問題によるイメージ悪化もあるが、それ以前に北米の乗用車市場ではガソリンエンジンへのニーズが高い。

加えてこのエンジンは、あえて高回転域での馬力を捨てる代わりに、オクタン価の低いレギュラーガソリンでも高トルクが出るよう設計されている。毎分4000回転を越える回転域ではレギュラー時にトルクが落ち込むが、ミドルクラスSUVでこの回転域を使う機会はほとんどない。

すなわち安価なレギュラーガソリンを使っても発生トルクがほとんど変化せず燃費が落ちないため、ガソリン価格の違いがそのまま経済性へとつながるよう考えているのだ。北米のガソリン供給事情を考えたうえでの施策だが、低回転域のトルク重視・理論空燃比領域の拡大といった特性もあって、カタログ燃費に対して実用燃費が極めて近くなる。

実用性能重視で顧客満足を引き出す

CX-9の開発主査を務め、北米マツダの副社長に就任したばかりの大塚正志氏

カタログ馬力を上げるためにコストをかけるのではなく、実際に運転して実感するフィーリングと、オーナーになって初めて理解できるだろう実用燃費のよさ。こうした部分にコストをかけて顧客満足度を上げ、1.7%という低シェアからの巻き返しを図ろうというわけだ。

すなわち、シェアは高くないもののブランド力の高いマツダを選んでくれた顧客に対してより高い、期待値を超える満足度を与えることで、次のマツダオーナーを顧客自身が生み出してくれる上向きの口コミスパイラルを強く意識した車種がCX-9とも言えるだろう。

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