日銀、追加緩和見送りで「カード温存」の公算 「総括的検証」でインフレ目標を中期化か

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黒田総裁も8月末のジャクソンホールの講演では、日本の場合はインフレ期待がアンカー(固定化)されておらず、適合型になっているので、原油価格が下がっているとどうしても低くなりがちだと説明している。また、7月の展望レポート(「経済・物価情勢の展望」)では公共料金や家賃が日本では上昇しづらく、インフレ率が上がりにくいという説明もしている。

9月20〜21日の金融政策決定会合における「総括的検証」では、2%の物価目標自体は揺るがないものの、事実上のインフレ目標の中期化を図るのではないか。

逆風の中で日銀はカードを温存

原油安と円高の状況下では追加緩和を実施しても、勝算がないので、追加緩和は当面やらないだろう。今が一番苦しい。原油価格の横ばいが続けば、消費者物価を下押しする効果は剥落してくるので、しばらくはカードは温存しておくと思う。円高が1ドル=90円台前半まで進むといったようなことがあれば、財界から円安政策を求める声が出るので、マイナス金利の深掘りということもありうる。だが、現状では追加緩和はないと見ている。

ETFの購入もこれ以上増やすことは難しい。現状でも大きな問題がある。価格操作であり、価格形成をゆがめているので、長期的に成長する企業に投資をするという年金基金などは日本の市場に参加しなくなる恐れがある。規模の大きな年金基金になると、成長力だけでなく社会に貢献する企業を投資対象に選ぶという基準もある。企業価値とは違うところで価格が決まるような株には投資できないという判断になるだろう。本来来てほしい長期投資家が参加せず、3カ月毎に決算を行うヘッジファンドばかりが来る鉄火場になってしまう。

日銀にとっても、ETFは国債以上に出口が難しくなった。リーマンショックの直後のように、パニックで誰も買わないから、割安な株価で買っておくというのなら、民間の資金が戻ってきたときに売却して出られるが、今のように高いところで価格を押し上げていると、出口が見えない。

※談話をまとめたものです。

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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