阪神・甲子園駅の野球ファン輸送は「神業」だ 試合の流れを読んで臨時のタイミングを判断

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一方、プロ野球とともに甲子園球場は高校野球も行なわれるが、その観客輸送はプロ野球とは少し違うという。

「高校野球は朝から晩まで数試合が連続して行われます。そのため、途中から来られるお客様、途中で帰られるお客様もいらっしゃいます。一日中、つねに人が動いている状況なので、臨時列車も一気に出すことはありません。また、遠方の学校だと帰りの貸切バスや新幹線の発車まで時間に余裕のあることが多く、試合終了後に近隣の商業施設や観光地などへ立ち寄ってから集合場所の駅へ向かわれる方も多いですね」(桒村さん)

ちなみに、助役が各高校の生徒や応援団に集合場所の駅や時間などを聞くこともあるという。まさに“足で集めた情報”を基に、的確な判断が行われているのだ。

2つの球場輸送を担う阪神電車

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大屋根が架けられた甲子園駅(筆者撮影)
鉄骨ジョイント部に1カ所だけ野球ボールが挟まっているという遊びも(筆者撮影)

ところで、長い歴史を持つ阪神電鉄の観客輸送だが、7年前から少し状況が変わったという。「2009年に当社のなんば線が開業したことで、ドーム前駅が京セラドーム大阪の最寄り駅となり、当社はこちらの観客輸送も担うことになったのです。プロ野球やコンサートなどが同日に開催されることもあるので、人の流れがより多様になりました」(藤森駅長)。

1つの鉄道会社が2カ所の球場輸送を担うというのは、全国的にも珍しい。取材当日も、京セラドーム大阪では人気アーティストのコンサートが行なわれていたが、特にプロ野球開催時は観客の動く時間帯が似通ってくるため、ドーム前駅を管轄する尼崎駅長とも連絡を取り合い、連携しているという。

現在、改良工事が進められている甲子園駅。野球のボールや高校球児のユニフォームをイメージした白い大屋根が架けられ、ホームの幅も拡げられた。「野球観戦というエンターテインメントを楽しんでいただくために、気持ちよく駅を降りていただき、良い思い出を持って帰ってほしい。そのためにも、とにかく安全・快適にご利用いただけるよう、係員全員が使命感を持って応対しています。野球ファンの皆様に阪神電車ファンにもなっていただけるよう、これからも努力してまいります」(藤森駅長)。

タイガースファンや高校野球ファンの聖地を陰で支える阪神電鉄と甲子園駅。甲子園球場を訪れる時は、ぜひその観客輸送にも目を向けていただきたい。

伊原 薫 鉄道ライター

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いはら かおる / Kaoru Ihara

大阪府生まれ。京都大学交通政策研究ユニット・都市交通政策技術者。大阪在住の鉄道ライターとして、鉄道雑誌やWebなどで幅広く執筆するほか、講演やテレビ出演・監修なども行う。

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