渋澤:日銀は大量の国債買い入れによって、日本国債の「価格発見機能」を壊してしまいました。もっとも、日本国債の市場の発行体はひとつであり、かつプロ向けでもあります。一方、株式市場では発行体が多様多彩です。そこには企業価値をしっかりと創っている会社もあれば、そうでもない会社もある。市場参加者は日本人もいれば外国人も参加していますし、プロだけでなく個人投資家も参加している大衆市場です。国債市場のように、株式市場の価格発見機能や流動性が損なわれたら、比べ物にならないほどの、大きな問題になるでしょう。
そう考えると、私は9月20、21日に予定されている日銀金融政策決定会合において、中央銀行の役割とは何かという点について、きちっと総括してもらいたいと思います。中央銀行は経済のセーフティネットという「最後の買い手」の役目はあります。しかし、自らPKOして株価を上げることではありません。そこをしっかり確認したいと思います。また、大きな問題は「株価上がれば良いじゃん」と日銀の買いを近眼的に歓迎する声が市場では少なくない、いや、かなり多いということですね。民に自立精神がない国に陥るようでは、将来へのマインドや期待が好転するわけないです。どんなに金融緩和しても。
黒田総裁を孤立させてはいけない
藤野:黒田日銀総裁をあえて擁護すると、物価を上げるには日銀の金融政策だけでは無理だということです。やはり将来に対する期待感が高まらないと物価も上昇しません。ただ、それは日銀の役割なのか、ということです。安倍政権は、その機能も日銀にアウトソースしたつもりでいるようですが、黒田日銀総裁は逆に政府が何もしてくれないと思っているでしょう。フォワードルッキングを働かせ、物価を上昇へと持っていくためには、政府が成長戦略をきちっと打ち出すなど、今後の道筋を提示することが大事なのに、アベノミクスの3本の矢における成長戦略は、完全な尻すぼみになりました。
安倍首相は、自ら唱えたアベノミクスについて、何を信じれば良いのかということを、まったく発信していません。黒田日銀総裁は、いずれ第2の矢、第3の矢によって、異次元金融緩和が報われ、徐々に正常化へと向かうだろうという思いで、日銀の役割を超えることまで決断し、実行に移したのだと思います。だから、黒田日銀総裁を孤立させてはいけないということを、ぜひとも総括に盛り込んでもらいたいですね。
中野:まあ、絶対にないと思うのですが、私は黒田日銀総裁が官邸によってハシゴを外されたと、ストレートな思いを総括に盛り込んでも良いと思います。政治がダメなのだと、この際だから国民全員にぶちまけてもらいたい。
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