南相馬市への連絡を怠った東京電力 協定非締結理由に、停電事故後13時間以上も情報伝えず

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南相馬市に東電から初めて説明があったのは、翌日の午前8時30分。市役所内に常駐していた東電の職員が、定例の会議の場で桜井勝延市長らに事実関係を伝えた。

政府の検討会でも説明せず

南相馬市側の対応にも疑問が残る

今回の事故について、3月29日に開催された原子力規制委員会の「特定原子力施設監視・評価検討会」では、多くの専門家から「地元自治体や住民への配慮の不足」が指摘された。当時、浪江町などでは住民の一時立ち入りが続いていた。

しかし、同検討会の場で東電は南相馬市に通報をしていなかった事実を明らかにせず、出席した専門家からも質問は出なかった。

2011年3月11日の原発事故の際にも、協定を結んでいなかった南相馬市には東電からの事故情報は届かず、桜井市長はテレビを通じて政府による20キロ圏外への避難指示の事実を知らされるというありさまだった。住民はパニックに陥り、桜井市長が東電に強い不信感を抱く結果にもなった。

そして今回、再び、情報伝達の不備が露呈した。

29日の記者会見で東電は「(情報伝達について)善処していく」としつつも、協定の締結については「自治体側からの要請を待つ」との考えを示した。一方、南相馬市危機管理課の担当者は東洋経済の取材で、「現時点では協定を締結する準備は整っていない」と話した。

協定書が結ばれていないリスクが露呈

協定書を結ばなければ通報連絡をしないという東電の姿勢自体、非常識きわまりない。それとともに、南相馬市の対応にも疑問点が残る。

東電が各自治体と締結した協定書では、発電所施設の故障などについて、「発生後直ちに連絡するものとする」と明記されている。夜間の通報の際の通信手段が「FAXおよび電話」(東電→県)や「FAXおよび市町村からの受信のメール」(東電→市町村)という現在の仕組みでよいのか検証の必要はあるが、いつまでも協定書が結ばれないこと自体、問題だと言える。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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