「悩んでしまうのは、あと何年でクビという不安から逃れたいから。ひとり暮らしで貯金がゼロなので、働き続けないとホームレスになっちゃいます。だから、本当に、働ける期限があるのは怖い。やっぱり正社員として働きたいって思う。きっと、自分にもそういう働き方ができるというかすかな希望を持っています。あとは世の中にはボーナスがあると聞きます。もし、ボーナスをもらえるような職に就けたら、もっと人間らしい生活ができるのかなとか」
どうして、ただただまじめに勤労する女性が苦しむのか。単身で暮らす20~64歳の女性の3人に1人(32%)が貧困状態にある(国立社会保障・人口問題研究所)。さらに65歳以上の単身女性になると47%と過半数に迫る勢いとなっている。
さらに公共機関で働く彼女は、残酷なほどの正規非正規格差の渦中にいる。全産業での正規職員の平均賃金は321万1000円(平成27年賃金構造基本調査統計)と比べると約6割の収入しかない。さらに職場の同僚にいる正規の地方公務員と比べると、正規は平均年収669万6464円(平成26年地方公務員給与実態調査)と好待遇で、非正規の賃金は正規の3分の1にも満たない。
努力や自身の成長、仕事の成果ではどうにもならない絵に描いたような官製貧困、官製格差だ。貧困から抜けて、普通の生活をするためには学芸員の資格取得ではなく、ダブルワークをして長時間労働によって差額を埋めていくしかない。実際に同じような官製貧困に悩む、介護職の女性たちのダブルワークは常識で、その一部は性風俗に流れている。
低賃金や格差の現実で精神的に追い詰められ、悩み、身動きが取れなくなるのは谷村さんのような、よりまじめな一般女性たちだ。いったい、どうしてそうなってしまったのか。
新卒入社の会社では長時間労働の末、倒れた
両親と妹は父親のリストラを機に地元の北海道に帰り、谷村さんは社会人1年目からひとり暮らしを始めた。中堅大学の文学部を卒業して、IT系の中小企業に就職する。
「新卒入社の会社は5年間ほど勤めました。残業は月100時間ぐらいあったけど、残業代は出ました。なので、手取り25万円は超えていました。実は、お酒飲むのが好きで、その時代はよく友達と飲みに行ったりした。すごく忙しかったけど、自分のこれまでを振り返ると、いろいろ友達もいたし、当時がいちばん普通の生活だったなって。そのような普通の生活ができたのは、当時だけ。結局、残業代はたくさんもらっていたけど、長時間労働の過労で倒れて体調を崩しました。精神科では抗うつ神経症って診断されて、働けなくなりました。両親のいる実家に帰って、しばらく休んでから大学時代に取った図書館司書の資格を生かそうと図書館に勤めた。今と同じ嘱託職員で、手取りは12万円程度でした」
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