月収13万円、37歳女性を苦しめる「官製貧困」 公営図書館の嘱託職員は5年で"雇い止め"に

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「その日暮らしは十分できます。もっと経済的に厳しい人がいるのも十分承知はしています。けど、ずっとギリギリの生活で、何のぜいたくもしていないのに貯金すらできない。嘱託は1年契約、更新は最長5年と決まっていて、今は4年目です。来年はすごく頑張っても、仕事で成果を出しても確実にクビになります。低賃金なので蓄えはないし、年齢ばかり重ね、私はいったいどうなってしまうのだろうって」

家賃5万円。自宅は最寄り駅から15分と遠く、都内ではかなり安い。仕事はシフトによって、終業は17時15分か20時15分。谷村さんはいつも仕事帰りに駅前のスーパーマーケットで割り引かれた食材や総菜を買い、帰宅する。部屋にはテレビもパソコンもない。調べものはスマートフォンでする。夕飯を食べて家事をして、休日や空いた時間は自宅で勉強をしている。

悩んだ末に今年4月から学芸員の資格を取得しようと、通信制大学の科目履修生になった。給与が安いので外食や交遊、買い物はほとんどしない。仕事、家事、勉強を繰り返す孤独で単調な生活で、毎日職場や自宅で何度か「私、これからどうなっちゃうの」と、不安になる日々という。

「図書館司書は専門職です。私は子どもたちのための児童書や児童文学に詳しくて、たまに自分が企画してフェアみたいな企画をやっています。でも役所は誰でもできるって考えているし、いくらでも交換ができる部品くらいにしか思われていません。だから、非正規なのでしょう。私は司書の仕事をどうしても続けたくて、今ここが2カ所目です。前は他県の図書館で働いて、満期5年で契約が切れてしまったので都内に引っ越しました。また、あと1年半しか仕事ができないって考えると不安で、たまに眠れなくなることもあります」

嘱託職員は最長5年と、労働する期間が定められる雇用だ。勤務先の公営図書館は嘱託職員が中心となって運営している。必要な人材であっても毎年、誰かが契約切れで辞めていく。非正規採用の職員が無期雇用となる道はなく、司書の仕事を継続したいなら、別の自治体が運営する図書館に非正規として再雇用されるしかない。

5年の契約が切れるときは40歳目前

「5年の契約が切れるとき、私は39歳です。すごく司書の仕事は好きで続けたいけど、またギリギリの生活から抜けられない覚悟をして、同じような非正規を渡り歩くか、またはほかに能力ないけど、もう少しまともな生活ができるような仕事をなんとか見つけるか。年齢もあるし、本当は将来がないなら今すぐちゃんとした仕事を探したほうがいい気もするし。悩みばかりです」

彼女はメールで応募してくれた女性だ。応募理由はどうやらまじめに働いても抜け道のない生活に悩み、取材というより、誰かに相談をしたくて応募をしたようだった。同じ司書の同僚は地方公務員だったり、非正規ならば親元で暮らしていたり、配偶者がいたり、ひとり暮らしという同僚はいない。

図書館などの公共サービスは、自治体が民間の指定管理会社に運営を委託する流れがある。将来的に賃金上昇や雇用改善が期待できない業種だ。私は「年収200万円は非正規の平均で決して珍しい例ではなく、むしろ一般的。40歳で異業種に転職しても、おそらく賃金は似たり寄ったり」「学芸員の資格を取得しても雇用は少ない。貧困から抜け出すキッカケにはならない可能性が高いのでは?」と伝えた。谷村さんは“やっぱり”という表情になってため息をつく。

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