安倍首相の談話にも慎重な姿勢がにじんでおり、過大な期待は禁物である。日ロ両国間にも、また第三国との間でも不透明なことがあり、場合によっては交渉の妨げにもなりうる。
まず、安倍首相が強調している「新しいアプローチ」とはなにか。日本政府内には、「日ロ関係を総合的に考えていくことだ」という説明があるそうだが、それはいつものことでないのか。そもそも二国間の関係を進めるときに関係全体を考えないアプローチはないはずである。どうもこの説明はわかりにくい。
安倍首相は経済面での協力を重視
一方、安倍首相が経済面での協力を重視しているのは明確だ。ウラジオストク訪問の直前に発表された「ロシア経済分野協力担当大臣」の設置は同首相の熱意を象徴的に表している。ロシア側がこのような安倍首相の姿勢を高く評価しているのは当然だ。
しかし、領土問題に関する交渉を経済面での関係促進と並行して進めていこうという試みは橋本首相や小渕首相がエリツィン大統領と試みたことであり、「共同経済活動委員会」の設置まで合意されていた。それとの比較で言えば、安倍首相とプーチン大統領との合意はほぼ同じ地点に戻ったに過ぎない。
大事なことは経済協力が実行され、実際に効果を発揮することである。極東の開発に日本の協力は大きな力を発揮しうる。とくに石油や天然ガスの価格低下とウクライナ問題に端を発する経済制裁の影響を受け、経済状況が芳しくないロシアにとって日本からの経済協力は非常に魅力的だろう。
条件はそろっているわけだが、効果が目に見える形になって出てくるまでにかなりの時間が必要であり、それまでに日ロ関係を後退、あるいは悪化させる問題が発生する危険がある。たとえば、ウクライナ問題が悪化すれば日ロ関係も影響を受けるだろう。
このほか、プーチン大統領は強い指導者として日本との平和条約交渉をまとめる力があると期待されているが、同大統領自身の交渉に関する考えに不明確な点があるのも問題だ。
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