「シンクロ鬼監督」の結果を出す意外な指導術 井村雅代の「選手の心に届く」コーチング力
「井村さんを戻して強化を図っていきたい。日本をもう一度強くするにはそれしかありません」。金子は何度も幹部を説得し、実に10年振りの井村の日本復帰が実現した。
短期決戦は「狙いをひとつに定めてひたすら磨く」
2014年4月に正式に復帰した井村が、まず最初に手がけたのは選手の肉体改造である。うっすらと脂肪がのった全身の印象は丸く、懸垂のチーム平均回数はわずか3回。とても世界で戦うアスリートの肉体とは言えなかった。
井村は、中国で過去2度のオリンピックを共に戦い、シンクロ選手の体を知り尽くした理学療法士、浅岡良信をすぐさま呼んで、「選手たちの着ぐるみ(ムダな脂肪)を脱がせて欲しい」と、肉体改造を依頼した。
このとき、5ヶ月後にアジア大会、その翌月にはワールドカップが待ち構えていた。これらふたつの大会を無冠で終える気などなかった井村は、目標達成に向けてある判断をする。
それは、たった一つ「これだけ」と狙いを定めてひたすらその部分を磨くことだ。これが、短期決戦に臨むときの井村の哲学である。
「改善のプロセスにおいて何かを変えると初めは下手になる。練習を重ねてそれを乗り越え上達していく。この手順を踏む時間がない状況において、悪いところを全部直そうとすると改善が中途半端になってしまう」という理由によるものだ。
井村は、当面の2大会に向けて「演技のキレ(動きのメリハリ、シャープさ、元気よさ)」を磨くことにテーマを絞り、そのために必要な、きりりと絞り込んだアスリートらしい肉体と、強くてしなやかな筋力を創ることに全力を傾けた。
結果、当初チーム平均で3回だった懸垂は数カ月で17回に、40キロがやっとだったベンチプレスも75キロまで急上昇した。
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