インドの電車が「ドア開けっ放し」で走るワケ 事故死が毎日起こる国に日本流は通用しない
乗客もドアを閉めることにより電車が遅れ、通勤時間が延びるような状況は望んでいない。昨年7月ウェスタン・レイルウェイに新型電車が登場、この1年で半数以上が新型に置き換わったが、相変わらずドアは開けっ放しで空調も付いていない。
混雑した状況の中で自動ドアを使いこなすという意味では、日本が世界一のノウハウを持っていると思う。しかし、それをインドに適用する場合に注意すべき点は、女性の衣服から垂れ下がる長い布である。日本の自動ドアに使用されている戸閉スイッチ(隙間により戸ばさみを検知する機械的なスイッチ)では、この布をはさんだことは検知できない。発車の際に布がドアにはさまれたままホームに取り残された場合、重大事故に結び付く可能性がある。ドアが開けっ放しなら戸ばさみ事故は発生しない。
線路が冠水しても運転を継続
筆者は昨年7月からメトロの鉄道車両コンサルタントとしてムンバイに住んでいる。6~9月のムンバイは雨季、降雨はこの4カ月間に集中する。朝から大雨が降り続いた今年8月某日の正午過ぎ、職場の一斉メールで13時半の満潮(しかも大潮)を避けて早めに帰宅するよう“早期帰宅勧告”が出た。
今がチャンスと退勤して線路冠水を撮影した。場所はセントラル・レイルウェイのサイオン駅前にある跨線道路橋と駅構内。雨季に入る前に浸水しやすい場所として下見をすませていた。
急行線、各駅停車の緩行線とも、いずれもレール面上10cmくらい冠水しているが、電車は徐行運転で走り続けている。急行は若干間引いているが、各駅停車は遅れているものの通常の運転間隔でやってくる。
「日本の鉄道技術は世界一」と手放しで言う人がいるが、日本の電車はこの洪水の中を走れるだろうか。日本の電車が走れないなら、なぜダメなのか、走るためには何が必要なのか、信号システムなども含めて提案できなければ、日本の鉄道技術(者)は世界一とはいえない。
筆者が車両屋の目で近郊電車を観察すると、インドの電車の洪水対策が見えてくる。まず日本では床下にある制御装置が床上に搭載されている。パンタグラフの下は機器室になっており、客室スペースを犠牲にしても必要な対策なのだろう。またモーターが車輪を駆動する方式は、古い吊り掛け式(日本の昔の茶色い国電が採用していた方式)にこだわるのも洪水と関係ありそうだ。歯車箱に水が入った場合、ギヤオイルが乳化して潤滑が損なわれるが、吊り掛け式のギヤコンパウンド(グリース)なら耐水性がある。
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