伊藤忠は「カラ売り屋」にヒステリックすぎる 露呈してしまった日本市場の"田舎っぺ"体質

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さらに昨年11月、TSIホールディングス(東証1部)の株を借りて、引け際直前にカラ売りしたことに関し、証券取引等監視委員会が相場操縦(金商法違反)の容疑で村上世彰氏やその関係先を強制調査したが、何でこんなものが相場操縦になるのかと驚いた(結局、第三者委員会の「相場操縦に当らない」という結論が決め手になったようで、お咎めなしになった)。

ヘッジファンドが「我々の存在は市場の効率化に寄与している」などと主張するのは、(そういう側面が皆無ではないにしても)片腹痛いが、カラ売りファンドは市場にとって好ましい影響を与えるものである。

カラ売りファンドの日本への進出を歓迎する

それは、彼らの存在によって、一般投資家は新たな視点を与えられ、市場の議論も活発化するからだ。日本も昔に比べると株主からのプレッシャーが厳しくなって、東芝のように粉飾決算をする会社が出てきたり、上場基準が緩和されて、怪しげな(ないしは脆弱な)会社が上場しているケースもあり、カラ売りファンドが活躍する土壌はできてきている。

なお、彼らの主張が正しくても、相場のトレンド次第では敗北する場合もある。1990年代、米国の長期の上げ相場の中では多くのカラ売りファンドが廃業に追い込まれた。前述のジェームズ・チェイノスも中国株がなかなか下がらずに苦戦し、傘下のファンドは2012年から3年連続で赤字を出した。

いずれにせよ徹底した調査にもとづく米国型のカラ売りは、最もインテリジェントでスリリングな投資手法である。

カラ売り屋を含む、投資家の疑問に対しては堂々と答え、議論するのがグローバル・スタンダードである。伊藤忠のヒステリックな反応を見ると、何かやましいことがあるのではないかと勘繰りたくなる。ムーディーズは当時、チェイノスのカラ売りに対して「様々な意見が出されることは、株式市場の健全性と活性化に貢献するものと信じる。我々は率直な意見交換を歓迎する」と声明を出した。

伊藤忠とグラウカスはまだ直接議論を戦わせていない。米国ではアナリスト説明会にカラ売りファンドのマネージャーが参加して、相手のCEOやCFOと白熱した議論を戦わせる(たまにCEOやCFOが怒って、電話で参加していたカラ売りファンドのマネージャーの回線を引き抜いたりもするが)。

伊藤忠とグラウカスなど多くのアナリストとの間でも今後活発な議論が交わされることを期待したい。

黒木 亮 作家

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くろき りょう / Ryo Kuroki

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。大学時代は箱根駅伝に2度出場し、20キロメートルで道路北海道記録を塗り替えた。ランナーとしての半生は自伝的長編『冬の喝采』に、ほぼノンフィクション の形で綴られている。英国在住。

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