航空業界の競争力は人材。そこで予算は惜しまない−−シンガポール航空CEO 周 俊成

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-- 一方、49%出資する英国2位のヴァージン・アトランティック航空の株式売却を検討している。

彼らの路線網は補完的な立場にあると思い、8年間保有したが、あまり儲かっていません。予測できなかったナイン・イレブン(9・11)も起こった。投資をしたので株主に対して価値を上げる責任があります。リターンが予測に合わなければ、オプションを考えざるをえない。現在は投資のレビューをしています。

--アジアではLCC(ローコストキャリア)が急速に台頭しています。タイガー航空に49%出資したのは脅威に感じたからですか。

LCCを脅威に感じたことはこれまでまったくありません。タイガーへの出資は投資をすることで中身をよく見たかったからです。運航のやり方はわれわれのフルサービスとだいぶ違って特性があり、ひょっとしたらいろんなアイデアを享受できるかもしれません。あくまでもプラスに働くと考えたからです。50%ではなく、49%にとどめたのは子会社にしたくなかったからです。LCCを子会社にして成功した例はありません。会社の中にもう一つローコストが入ってしまうため、おそらく人で失敗するんでしょうね。同じチームで同じマネジャーで同じスタッフでうまくいくわけがない。今朝はフルサービス、夕方はLCCとはいかないわけですよ。

--LCCと競争環境にもないということですか。

われわれはLCCと違ったマーケット領域です。欧米を中心にLCCはこれまで飛行機に乗ったことがない人を取り込むことで市場を創出しました。鉄道や道路で行き来した人が今度はローコストの航空会社に乗るという代替手段です。遅れていたアジアで最初のLCCがシンガポールからバンコクに運航開始したとき、われわれもさすがにエコノミー料金は15%下げましたが、結果的に減便ではなく増便しました。LCCとフルサービスそれぞれに需要があることがわかります。一方、LCCは長距離路線では難しいですね。つい最近もその代表例であるオアシス香港航空が経営破綻しました。これはLCCではなくてローフェアキャリアですよ。コスト構造が随分高くなったことが問題ですね。

--日本での戦略は。

2010年の成田空港の滑走路拡張はチャンス。本当はフライト数に制限がなければいいですが、それができなければ、段階的にオープンすべきです。もちろん、これは政府間交渉ですが、関心を持ってます。

--今後の経営目標は。

時価総額やシェアなどの数値目標はありません。小国であるシンガポールにとって、われわれがいちばん注意すべきことは、お客様にとってナンバーワンであるということだけです。そうすると、利益率など考えなくても大丈夫なわけですよ。
(冨岡 耕 撮影:谷貝 豊(スタジオELF) =週刊東洋経済)

Chew Choon Seng
1946年シンガポール生まれ。シンガポール大学(機械工学専攻)卒、ロンドン大学経営学修士修了。72年シンガポール航空入社。東京、ローマなど各支社を経験後、本社で企画、マーケティング、財務部門を歴任。2003年6月から現職。シンガポール証券取引所ディレクター、シンガポール政府投資公社(GIC)取締役、国際航空運送協会(IATA)理事も務める。

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