日本株は「日銀ETF中毒」の一歩手前だ 日銀に振り回され続ける日本市場

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実は7月28日までは「前場、TOPIX(東証株価指数)の下落率が-0.2%よりも大きかったらETF買い入れが実施される」というパターンが確認されていた。

このパターンが明確だったことから、売り方は後場買い戻しを入れるなど、一定の抑止力となっていた。もちろんETF買い入れを飲み込むレベルの売り崩しは何度もあったが、それでもパターン通りに動いてくる日銀を市場は「信頼」していた。

異変があったのは、ETF買い入れ幅が拡大された後の8月16日だ。前場のTOPIX下落率は前日比-0.38%していた。市場はランチタイム辺りから「日銀ETF買い入れが入る」と見越して先物買いに動いた。だが、12時過ぎ、トレーダー筋から「どうやら日銀は買わないようだ」と伝わると、後場一気に崩れる格好となった。日銀がETF買い入れに動く水準が不透明となったことで、市場は疑心暗鬼となり、積極的に動けなくなっている。

日銀が日本株を大量に抱え込む必要はあるのか

そもそも、日銀がこれほどまで日本株を抱え込む必要はあるのだろうか?15日に発表された4-6月期GDP速報値は、前期比年率+0.2%と成長率は1-3月期の+2.0%から大幅に減速した。個人消費の伸びが低迷したほか、企業設備投資が予想を下回ったことも成長鈍化の要因となった。

証券業界に近い場所で仕事をしていると、日経平均の動向だけで日本経済を判断してしまいがちだ。筆者も含め証券関係者の一部には「株が上がっている=日本の景気はいい」という単純なロジックをベースに生活しているフシがある。

株は期待(警戒)先行で上下する特性があることから、アベノミクス相場スタート時の上昇ピッチは非常に早かった。ただ、「株高=景気回復」という構図はなかなか実現できていない。

確か当初は株高による一定の浮揚効果はあった。一方、個人投資家はすそ野こそ徐々に広がっているが、欧米と比較するとまだまだだ。確定拠出年金制度の利用者にしても同じだ。幅広い層に景気回復、デフレ脱却を実感してもらうには、株高政策だけでは限界がある。

日銀によるETF買い入れ実施の有無、9月の日銀会合での追加緩和期待など、足元、金融政策への関心は異常なほど高まっている。

2013年4月に異次元緩和がスタートして早3年半経過したが、景気回復、デフレ脱却はなお道半ばだ。筆者は根本的には成長戦略の見直しが必要と考える。農業、医療、雇用など様々な規制緩和の実施が必要だと思うが、結局のところ「一丁目一番地」は人口減少への対応だろう。

人口が減少している国の経済成長率を高めようとする時点で、「力業勝負」となり歪みが生じる。人口が減少しているのであれば、少子化対策を推進するか、移民を受け入れるかの選択となるだろう。この場合、移民受け入れは、日本独特な心情的な問題が発生する可能性もあり、実現は難しいが、少子化対策は積極的に取り組む価値は十分にあると考える。即効性は無く、効果が出るまで試行錯誤もあるかもしれないが、国力を強めるためには重要なことだ。

確かに、金融政策を打ち出せば、目先の日本株は上昇するかもしれない。だが、あくまでも「カンフル剤」に留めておくべきだろう。金融、財政政策で地盤を固め、政治力で成長戦略を推進するという構図が10年、20年先の日本経済もしくは日本株を考えると、結局は一番望ましいはずだ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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