ブリヂストンが「脱普通タイヤ」を急ぐ理由 大手4社とも戦略商品の強化に本腰

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一方、上期(1~6月)決算発表時に営業益の修正を行わなかったのが、東洋ゴム。すでに5月の第1四半期決算発表時、為替の前提を見直しており、ここからの円高は限定的だった。足元の北米事業も好調が続いている。

他社も取り組みを強化する、SUV(スポーツ多目的車)用タイヤを前期に計画前倒しで生産を進め、特需を謳歌。ガソリン価格下落は、ピックアップトラックなどの需要を刺激し、ブームとも呼べる現象を迎えているためだ。加えて国内新車用も、新たに人気のハイブリッド車(HV)に採用されたことで、こちらも健闘が目立った。

ただし、最終利益をみれば、下振れが続く。やはり不祥事を起こした、免震ゴム事業の特損が響いている。今回も77億円の関連特損を追加し、前期の第1四半期から、実に6四半期連続での特損となった。

新たに防振ゴムについても特損を計上、こちらは打ち止めの可能性があるものの、免震ゴムの特損はさらに発生する恐れがある。2015年3月に「交換の必要あり」と判断された55棟については、この6月末時点で19棟まで着工、13棟については完了している。もっとも、2015年4月発表の99棟については、まだ5棟を着工・完了したに過ぎず、残り90棟以上がこれからだ。工事の内容次第で、新たな特損が発生するのでは、との懸念が消えない。

低燃費タイヤやランフラットタイヤに活路

各社はランフラットタイヤなど戦略商品に力を注ぐ(写真は米国で販売しているブリヂストンの「Drive Guard)」)

2016年12月期にそろって減益見通しの4社だが、ともに積極姿勢は崩していない。工場の新設・増強にも前向きだ。

欧米中心に、タイヤの需要自体は底堅いからで、狙っているのは量ではなく質。中国など新興国メーカーの増産で汎用品では勝負できない。そこで各社とも、戦略商品の比率向上に努めており、そのための投資に積極的なのである。

戦略商品の中でもボリュームがあり、ラインナップに加えているのが、低燃費タイヤだ。エコカーとの相性がよく、中国市場などでも伸びの大きい商品である。さらに高付加価値なのが、北米などで需要が強まっている、パンクに強いランフラットタイヤ。パンクしてから数十キロメートル走ることのできるこのタイヤは、悪路が多く走行距離も長い米国をはじめ、国土の広い国で売れているという。

例えば、横浜ゴムが1300億円を投じて買収したアライアンスも、「脱・普通タイヤ」戦略の一例。アライアンスの得意とする農機用タイヤは、景気の変動と異なる動きをする長所もあるという。今期は減益要因になったが、IFRS(国際会計基準)導入を目指す来期以降は、利益貢献が見込まれるだろう。また、ブリヂストンはフランスで新たに自動車用品販売チェーンを買収し、ドイツでも自動車用品販売で合弁を新設・展開する。いずれもファミリーチャネルを拡充することで、売りたい戦略商品を並べ、ユーザーに提案できる。住友ゴムも北米工場で戦略商品の生産ラインへの作り替えを進めているところだ。

戦略商品の強化に本腰を入れるタイヤ各社。期初からの円高進行の逆風をもろに受けたが、交換用タイヤは利幅が厚く、世界的な自動車保有台数の増加に伴い、市場の拡大が続く状況に変わりはない。目先の失速とは別に、あくまで各社とも、攻めの姿勢が当面続くことになりそうだ。 

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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