「ほほ笑むことができない」難病の悲しい真実 メビウス症候群を知っていますか?

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私はほほ笑むことができない(イラスト:Krause/The New York Times)

「一度もほほ笑んだことがない人はいない」と、イェール大学の心理学教授マリアン・ラフランスは2011年に刊行した著書『微笑みのたくらみ―笑顔の裏に隠された「信頼」「嘘」「政治」「ビジネス」「性」を読む』(邦訳・化学同人)に書いている。

この本はほほ笑むことがいかに私たち人間をひとつにするかを説いている。呼吸と同じように、ほほ笑みは世界共通だ。私たちは人とつながり、人を許し、人を愛するためにほほ笑む。ほほ笑みは美しく、人間らしいものだ。

でも、私はほほ笑んだことがない。一度もだ。

ほほ笑むことができないのを自分で補う

私は先天性のメビウス症候群だ。顔面神経麻痺というまれな症状で、胎生期に顔の筋肉をコントロールする第6および第7脳神経が十分発達しなかったことが原因と考えられている。

私は1982年に英国で生まれた。国内で初めて試験管ベビーの双子が生まれたのと同じ日だ。科学が体外受精児という医学の奇跡を生み出した一方で、メビウス症候群の患者に医師ができることはほとんどない。

生まれてから30年以上が経っても、私はいまだに笑うことができない。眉をひそめることもできない。周りの人が日々見せる微妙な表情も微妙でない表情も、私はつくることができない。

メビウス症候群の人は「マスクのような表情」だと医師は表現する。見知らぬ人はまさにそう思うはずだ。顔が固まっているようで、まばたきもしない。私の口はつねに開いたままで、動くことはなく、左の口角は右よりもやや下がっている。道を歩いていると人の視線を感じる。

赤ちゃんが初めて「社会的微笑」をするのは、生後6~8週目くらいで、親にとっては待ち遠しいものだ。私の顔は赤ちゃんのときから表情がなかったので、私が声を出して笑うようになっても、笑っていると母親が気づいたのはしばらくたってからだった。

ほほ笑むことができないのを自分で補うようになったのはいつからだろう。

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