続けて藤原氏は、「東日本大震災が起きて地震学の知見の限界が改めて明らかになった。こうした中で、不確かさの扱いがそもそも十分だったのかについても議論すべき。そして、不確かさを体系的に原子力の安全規制の中で扱うルールづくりをしない限り、適切な基準地震動の設定はできない」と警鐘を鳴らす。
基準地震動の考え方を決める際には、「電力会社任せではなく、専門家を含むさまざまな立場の人たちがひざを突き合わせて議論する必要がある」とも藤原氏は本誌の取材に語っている。
再稼働に支障が出るから再検証はできない!?
長沢啓行・大阪府立大学名誉教授(生産管理システム)は、「原子力規制委の田中委員長は、入倉・三宅レシピしか原発の審査で使えるものはないと語っているが、この認識は間違っている」と指摘する。
脱原発市民グループ「若狭ネット資料室」室長を務める長沢氏は、これまで、九州電力・川内原発や四国電力・伊方原発など数多くの原発の地震動評価の実態を詳細に検証。再稼働差し止め訴訟などで意見書を提出してきた。
その長沢氏は次のように指摘する。
「政府の地震調査研究推進本部が使っているもう一つの予測手法(レシピ)で再計算したほうがより正確である一方、計算された地震動は関電が設定した現在の基準地震動の1.5~1.6倍程度になる。しかし、そうなると、大飯原発3・4号機では2012年3月のストレステスト(耐震余裕度テスト)で算出された炉心溶融につながる『クリフエッジ』(限界点)を超えてしまうので、原発は再稼働できなくなる。ほかの原発も再稼働が困難になる可能性が高い。だから、(今まで原発の審査で実績がないなどとの理由で)推進本部が用いている手法による再計算を拒んだのではないか」
このように、基準地震動をめぐるやりとりには政治的な思惑がつきまとう。
とはいえ、事態は前に動き始めている。原子力規制委によって島崎氏が持ち掛けた論争はいったん幕引きとなったが、原子力規制庁の事務レベルでは、「熊本地震の知見を踏まえると審査のやり方の再検討は不可避」との見方が広がり始めている。
いみじくも島崎氏は、「科学的事実をいかに反映させるかは、審査にたずさわる人たちの判断や見識による」と語っている。地震動評価のあり方をめぐる議論は、遠くない時期に再開される可能性が高い。
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