その証拠に、熊本地震を引き起こした布田川・日奈久断層帯北東部の長さは地震が起こる前は約27キロメートルと見積もられていたが、実際に地震が起きてみて調べたところ、震源断層の長さは約45キロだったと纐纈教授は指摘している。こうした検証結果を踏まえて、現在、電力会社や原子力規制委が用いている計算手法を熊本地震の予測に用いた場合、「地震動は過小評価になる」(纐纈教授)というのである。
ちなみに政府の地震調査研究推進本部が推奨する「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(レシピ)には、主に電力会社や原子力規制委が用いている手法のほかに、「松田式」をベースにした手法がある。後者は同推進本部による「全国地震動予測地図」での活断層地震の地震動評価に用いられている。纐纈教授は「松田式を用いた後者の予測手法で計算した結果のほうが、熊本地震の規模と地震動をより正確に再現できることがわかった」と本誌の取材に答えている。
"不確かさ"の扱いについて体系的な考え方がない
前出の藤原・防災科学技術研究所部門長も、「入倉・三宅式は査読付きの論文に掲載されており、式自体に誤りはない」と指摘する。そのうえで、同式を用いて地震動を評価する場合には注意が必要だという。
「入倉・三宅式そのものは、これまでに起きた数多くの活断層型の地震のデータに対して、一本の線を引いた回帰式にほかならない。その背後には、平均値に対して大きなばらつき(不確かさ)が存在している。その不確かさが原発の審査の際にきちんと考慮されているかどうかが重要だ」と藤原氏は強調する。
こうした見方に対して、原子力規制庁の幹部は原子力規制委の会合で、「大飯原発の審査に際しては、断層の長さについて不確かさを考慮している。断層の角度を寝かせて断層幅を大きく取ることもしている」などと説明している。
しかし、藤原氏は今の原子力規制庁の審査のやり方では不十分だという。
「どの程度まで考慮すれば、過去に起きた地震や今後起きる地震がばらつきの範囲に収まるのか、定量的な把握が十分に行われているとは言いがたい。"不確かさ"の扱いについて体系的な考え方を確立し、安全規制の中にきちんとオーソライズすべきだと私は十数年来、指摘し続けてきたが、いまだに実現していない」(藤原氏)。
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