だが、島崎氏の問題提起をきっかけに、これまでに電力会社が原発の耐震設計の前提としてきた基準地震動の計算の仕方に、多くの市民が疑問や不安を抱くよう になったのは事実だ。
地震動計算の専門家からも、「現在の原発の安全審査のやり方には課題がある。地震動の審査に際しては、自然現象(地震)や人間側の認識が内包する不確かさもきちんと考慮して安全性を確保する必要がある。熊本地震での新しい知見も取り入れ、より安全性を高める形で議論を進めるべきだ」 (藤原広行・防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門長)との意見が出ている。
事前に震源断層の長さ・幅の推定は困難
熊本地震を詳細に調査した専門家は、島崎氏の見方を支持する。地震動研究を専門分野にする東大地震研究所の纐纈(こうけつ)一起教授は、「原発の耐震評価で用いられている地震動の予測手法を熊本地震に適用すると、地震動は過小評価になることがわかった」と本誌の取材に答えている。
纐纈教授によれば、熊本地震の調査で判明した震源断層モデル(震源断層の長さや幅、地震モーメント、マグニチュードなど)を元に、入倉・三宅式を用いて地震動を計算した結果、「その予測手法で用いられている計算式そのものに誤りはなかった」という。
その一方で、「大地震が起こる前にいくら詳細な活断層調査を実施していたとしても、震源断層の長さや幅を正確に推定することは困難なので、より正確に計算できる別の予測手法を用いるべきだ」と述べている。
これはどういうことかというと、電力会社などが用いている入倉・三宅式そのものは、実際に起きた地震のデータを元にすれば、そこから正しく地震動を計算できる一方、大地震が起こる前に電力会社が原発の敷地内や周辺の地質や地層を詳細に調べても、そこで推定した震源断層の大きさから実際に起きる地震動を正確に予測することはできないということを意味している。
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