日銀ETF買いが支える日経平均の「危うさ」 投資家は円高基調の日本株買いに迷っている

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このところ、ドルの上値が重くなるケースが増えている。もともと今年に入ってから、米国はドル安政策を推し進めてきたが、現在のドル安は決してポジティブなものではないことは明らかである。7月の米雇用統計の数値が堅調な内容だったことが判明した際には、その前に発表された第2四半期の米GDP速報値の軟調な数値を背景としたドル安を払拭する動きが見られた。しかし、その間も米国債利回りの上昇は見られず、市場の見通しとは異なる動きになった。

9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ観測がやや高まる動きにあっただけに、利回りの低迷にはやや驚きもあるだろう。米国景気の堅調さを受けて長期金利が上昇し、ドル高基調に向かうとみていた市場参加者の思惑は覆されつつある。このように、現在のドルを中心とした為替相場の動きはきわめて激しくなっている。

方向感が見出せず、きわめて短期的な材料に対して市場が極めて敏感に反応するので、短期間の値動きも激しくなる。その結果、この日の前場ではドルが急落し、円だけでなくポンドや豪ドルが急伸するなど、非常に明確な形でドル安傾向が進んでいる。これが続くのであれば、いずれ市場に悪影響を与えることになるのだろう。

ドル建て日経平均を材料視する動き

市場では、ドル建て日経平均株価の上昇を材料視する動きが見られる。円高基調の中で円建て日経平均株価が下げ渋っているため、ドル建て日経平均株価は上昇する形になっているわけである。市場では、海外投資家はこのドル建て株価を見て、割安に感じているはずであり、いずれ買いが入ってくるとの論調が聞かれる。

しかし、日経平均株価の価値は円建てで決まる。現行の為替水準やその他の要因を考慮し、市場参加者の思惑で価格が形成されている。その円建てて決まる日経平均株価をドル建てて見ながら投資判断を行っている海外投資家がどの程度いるのかは不明だが、それだけで買うという判断をする投資家はあまりに短絡的である。いずれにしても、現在の円高基調が続く中で、日経平均株価がどこまで上げていけるのか。多くの投資家は、現在の為替水準で日本株を買ってよいものか、まだ迷っているようだ。最終的にはいつ買うのか。成り行きをじっくりと見させてもらうことにしたい。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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