「ノーベル平和賞で脚光 IPCCが果たした役割」ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長

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アル・ゴア前米副大統領のノーベル平和賞受賞は、気候変動の危機について洞察に満ちた警鐘を世界に向かって発信している、指導者の行為のすばらしさを証明することになった。ゴア氏と同時にノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の名前はそれほど知られていないが、ゴア氏と同様に受賞にふさわしい組織である。IPCCは気候変動に関する科学的な知識を評価し、啓蒙することを目的とする国連の組織である。

  IPCCのノーベル平和賞受賞には三つのメッセージが込められている。まず、IPCCにかかわる科学者と政府担当者が、�気象科学�を政策論争の場に持ち込んだことだ。気候変動は複雑な現象である。それを理解するには、気候学、海洋学、環境学、工学、政治学、経済学など多くの分野における専門的な知識が必要である。一人の科学者だけ、あるいは一国の科学者チームだけでは、とても対応できるものではない。

  IPCCは1988年に設立されて以来、気候変動の実態を解明するために世界中から最高の科学者を動員してきた。作業グループが、科学論文を検討し、報告書を発表している。この過程はすべて公開されている。各国政府は作業グループへ専門家を派遣し、IPCCが作成した書類に検討を加え、最終報告書の承認を行っている。こうした手続きを経ることで報告書は、内容の正確性と信頼性に対する評価を勝ちえたのである。
 
  今年、「第4次評価報告」が発表されたが、主要なリポートを作成するのに何年もの時間が費やされた。IPCCが輝かしい成功を収めることができたのは、IPCC議長のR・K・パチャウリ博士の優れた指導力があったからである。
 
  二つ目のメッセージは、共通の目標に向かって科学者と政府を結び付ける国際的な連携が極めて重要であるということだ。そうした連携がなければ、気候変動への理解不足のために正確な報道が行われず、特定の利益集団によって間違った情報が流布されていたに違いない。長年、エクソンモービルなどの石油会社は、気候変動は起こっていないとか、リスクが過大に評価されていると反論し、事実を歪めて報道するジャーナリストやグループを支援してきた。

  だが、現在、大手石油会社による気候変動の議論は、はるかに正直で建設的になっている。もし科学者に対抗し続けていれば、石油会社は最終的に社会的な評価を大きく損なうことになっていただろう。

  最後のメッセージは、今年のノーベル平和賞はアメリカ政府に対して科学と持続的な経済発展に対してもっと真剣になるべきだという警鐘を鳴らしたことだ。ブッシュ政権は破壊的ともいえるほど反科学的であった。同政権は、科学的な成果を無視する論者を、さらにはアメリカを危険かつ無責任な方向に導く人物を、重要なポストに登用していた。最近になってようやくブッシュ大統領は、気候変動の深刻なリスクを認識し始めるようになった。しかし、同政権は気候変動のスピードを減速させるような現実的な提案は何も行っていない。

  ブッシュ政権ほどイデオロギー的かつ独断的でない国家でも、まだ科学的な問題を十分に理解する準備はできていない。国の政府機構は外交、防衛、安全保障、金融といった20世紀のテーマに対処するように組織されており、持続的成長などの21世紀の課題に取り組む組織にはなっていないのだ。市民を守り、気候、水、エネルギー、生物多様性といった課題について、国家間交渉を行うだけの高度な科学的知識を動員しきれないのである。

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