日本株は「日銀の買い」がないといくらなのか 「官製相場」に乗ってハシゴを外される危険性

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2012年末以降の政府・日銀による「官製相場」で株価が上昇し続けたことが、そのような思考にさせてしまったともいえる。しかし、現状では、ドル円は依然として円高基調である。その一方で、株価は日銀によって買い支えられている。ここに「悪質な乖離」が出来つつある。

今の日経平均には約2000円のプレミアムがついている

筆者がこれまで参考にしてきた、アベノミクス相場が始まった2012年12月以降のドル円と日経平均株価の相関から導き出される、ドル円を基準にした日経平均株価の理論計算によると、現在の102円のドル円相場に相当する日経平均株価の妥当な水準はせいぜい1万4600円程度である。つまり、現在の日経平均株価には2000円ものプレミアムがついていることになる。

この2000円の一部は少なくとも日銀のETF買いによる押し上げが寄与していると考えられる。無論、このような相関がいつまでも続くことはなく、ある時期を経て、その関係が徐々に希薄になることは少なくない。しかし、日本株とドル円は、少なくとも現状の日本の産業構造からみれば、まだまだ切っても切り離せない関係にある。日銀によるETF購入による日経平均株価とドル円のかい離は、今後ますます乖離するだろう。それでも、ある時点で急激にその水準が修正されるときが必ずやってくる。

そのきっかけは、海外市場の変調になるはずだ。先週末に発表された7月の米雇用統計は、きわめて堅調な内容となり、市場では利上げ観測がやや高まっている。第2四半期のGDP速報値が市場予想を下回ったことで、いったん米国景気の鈍化懸念が高まったが、今回の雇用統計によって、その不安はやや後退した感がある。

とはいえ、米国にはそう簡単に利上げができない事情がある。ドル高は絶対に避けたいのが、今の米国の事情である。引き続き株高を維持するには、ドル安傾向の維持は最低必要な条件である。これを自らの手でドル高に向かうような利上げを行うことはできない。

では、実際はどうだろうか。英中銀が大胆な緩和策を導入したことでポンド安が進み、ユーロも対ドルで下落している。米国サイドから見れば、「これ以上ドル高になるような無茶な政策はやめてほしい」というのが本音である。その結果として、なかなか進まないのが円安である。

日本政府・日銀、そして株式投資家は、とにかく円安になってほしいと願っている。しかし、米国サイドの事情もあり、なかなか円安になりそうもない。日本サイドが何かを言えば、必ず釘を刺してくるのが米国である。昨年来、「円安に期待した投資行動は避けるべき」と繰り返してきたが、その状況は今も変わっていない。おそらく、今後も数年間、変わらないだろう。

いずれにしても、今回のように「人為的に」操作された市場への興味は著しく低下してしまった。このようなときには、冒頭にも書いたように、今夏はゆっくりとスポーツ観戦を楽しむのが賢明である。

ただし、昨年のこともあるため、急落に対する備えだけはしておきたい。プットオプションを保有して、日銀がコントロールできない「海外市場の要因」で株価が下げるようであれば、それを収益化できるかもしれない。海外市場では、過去の9月株安の傾向を前提に、「9月暴落説」なども出始めているという。そうなるかはもちろんわからないが、備えだけはしておいた方がよいと考えている。
 

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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