勤務19年で手取り16万円、保育士の実態 書類に追われ、ケガにビクビク

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さらに、保護者対応も負担増の大きな要因だ。不当な要求をするいわゆるモンスターペアレントもいる。保育園のトラブルに対応するサービス会社「アイギス」の脇貴志社長は言う。

「自分の子を特別扱いしてほしいという親が増え、保育士の負担を増やしている」

例えば、「うちの子にはこれを必ず使って」と、特別な日焼け止めクリームや虫よけ薬を預ける親や、「給食の調味料に食品添加物が含まれているかもしれないから」と持参した調味料を使うように求める親もいる。

東京の郊外にある認可保育園で働いていた女性(34)は、2歳児クラスの担任をしていたとき、ある女の子の母親に悩まされた。

「服汚した」と親が苦情

その母親は有名大学病院に勤める40代の看護師で、子どもにブランドものの服を着せて登園させていた。絵の具や泥んこ遊びの日は事前に知らせているのに、母親は「どうしてラルフローレンの服を汚したのか」と弁償を求めてきた。園長が「面倒だから」と言いなりになって弁償すると、苦情はエスカレート。母親は気に食わないことがあると連絡帳1ページにぎっしり文句を書いてくるので、女性は毎朝その子の連絡帳を開くのが怖くなり、退職を決意した。その後、民間の学童保育などで働いたが、現在は専業主婦。保育士に復職する気はないという。

その女性が現場に戻らない理由は他にもある。事故への恐怖だ。一時保育の担当をしていたときに、床に置いた給食のスープ缶に0歳児が手を突っ込んでやけどを負ったことがある。給食の準備に追われていた中での自分のミスだった。肌は数カ月後にきれいに治ったが、いつケガをさせてしまうかとビクビクするようになった。

都心の繁華街の雑居ビル2階にある無認可の24時間託児所で6年間働いていた男性保育士(34)も「何かあったらどうしようと常に神経をすり減らしていた」と振り返る。

園長のほか2人の保育士で15人の子どもをみていて、男性が一人で異年齢の園児8人を近くの公園へ連れていき遊ばせていた。高熱の子どもに解熱剤を飲ませて預けていく母親もいて、途中具合が悪くなった園児を、連絡の取れない母親に代わって小児科へ連れていったことも。心身への負担は大きいのに時給はわずか900円だった。

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