消防車、知られざる裏側 頭打ちの市場で成長、最大手モリタの秘訣

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モリタのターゲットは、国内の消防車市場にとどまらない。介護や海外といった将来に向けた新しい事業も育成しているのだ。モリタは昨年、介護従事者の腰痛を防止する腰部サポートウエア「ラクニエ」を発売した。もともとは腰痛に悩む消防士や救急隊員の声から生まれた製品で、販売には、近年、介護施設向けに急成長している「スプリネックス」(水を使わないスプリンクラー)の販路を活用する。

「医療と介護は、高齢化する日本の中で伸びていく市場。スプリネックスで介護施設とのつながりができたので、消火設備以外にも提案できるものがあればと思いました。介護分野にはいろいろな意味で参画していきたい。昔から訪問入浴車もやっており、疎遠だったわけではありません」(中島社長)。

海外にも橋頭堡

モリタは海外展開でも業界の先頭を走る。国内に20社弱ある消防車メーカーの中で、海外に工場を持っているのはモリタだけ。約40年前から東南アジアなどに消防車を輸出してきたDNAで、国内メーカーの先陣を切って中国に進出した。中国は、4000~5000台という莫大な消防車需要がある魅力的な市場。現地メーカーに2011年に資本参加し、段階的に技術供与を行って消防車を生産している(年間売上高は十数億円規模)。尖閣問題では、今のところ大きな影響は出ていない。

「われわれに限らず海外市場は、重要になってきます。1990年ごろから、アジア各国の工業化が進み、われわれから見れば『これが消防車か?』と思うようなものでも自分たちで作り出すようになりました。そのため、輸出は苦戦していたのです。だからここ10年ほどは海外展開に力を入れ、今のように中国に工場を設けるところにつながりました。実るのはこれからです」(中島社長)。

消防車の革新、新分野への参入――挑戦を続けるモリタを支えるのは、消防車が大好きな「消防車オタク」(三田工場長の岡田氏)たちだ。「赤い色が塗りたい」と塗装志願で入社する人や、「はしごを組んでみたい」と溶接志願で来る人、はたまた消防士になりたかったが身長が足りなくて、作る側で夢をかなえたという人までさまざま。モリタの挑戦は、そんな消防車オタクたちが描く夢につながっている。

長谷川 愛 東洋経済 記者
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