元スプリンターのすごすぎる「会社員人生」 ケンブリッジ飛鳥を五輪に導いた"仕掛け人"

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 元スプリンターで、現在はドームに勤務する大前祐介氏

ケンブリッジにとって、上司に当たる大前は現在34歳の元スプリンター。彼のビジネスパーソンとしての活躍を説明する前に、スプリンターとしての実績とその後のセカンドキャリアを紹介しておく必要があるだろう。

大前は早稲田大1年時に男子200mのジュニア日本記録となる「20秒29」を樹立。この記録は現在も破られていない(ちなみにケンブリッジの200mベストは20秒62)。大前は関東インカレで100m、200m、4×100mリレーの「スプリント3冠」達成するなど、“学生ナンバー1”のスプリンターだった。しかし、引く手あまたの長距離と違い、実業団選手への道は厳しかった。

「競技を続けたい気持ちがあったんですけど、実業団チームから声をかけられることはなかったですね。どちかというと、こちらからお伺いをたてる感じでした(笑)。正直、長距離がうらやましいと思いましたよ。有望選手は大学2年生ぐらいから何となく決まっているんです。冬になると駅伝やマラソンはテレビ中継があるので、企業は長距離選手を獲得します。でも、長距離以外の種目はフォーカスされる場所がオリンピックや世界陸上ぐらいしかありません。そういう事情は理解していますが、選手としては納得いかないですよね」

大学卒業後の所属先がスンナリと決まることはなく、富士通への入社が内定したのは4年生の10月だった。「ろくに就活もしていなかったので、決まらなかった場合は、よく考えてみたらヤバいですよね」と大前は振り返る。

競技に集中してはいけない

現在も長距離以外の選手は、大学卒業後の進路がなかなか決まらない。日本選手権を制した選手ですら、種目によっては厳しい現実が待っている。大前は「競技に集中してはダメです!」と学生アスリートたちに強く主張する。

「選手だからといって、競技だけをしていればいいという時代は終わったと思うんですよ。監督など指導者を頼って、知り合いのチームにねじ込んでもらうのが就活のありがちなパターンですけど、指導者は人材紹介を生業にしているわけではありません。いま思うと、自分をもっと売り込むべきでした。

アスリートの就活は、自分が持っているコネクション、パイプをすべて駆使するしかないんです。自分の価値がこういうものなんだ、というのをプレゼンテーションできる状態にしておき、いろんな情報を自分で仕入れておく。そして、陸上部のない企業にも、売り込むべきです。もっとセルフプロデュースしないといけません」

富士通に入社した大前は2年目に「社員選手」から「契約選手」となり、競技だけに集中できる環境を手に入れた。給料は年俸制で、入社2~3年目の社員と比べてかなりよかったが、その反面、査定は厳しかった。

「3年目は日本選手権で入賞したんですけど、ケガの影響で日本選手権しか出られなかったんです。そしたら、大減俸ですよ。インセンティブ込みで、3分の1ほどになると言われたので、移籍先を探しました。でも、簡単には見つからないですよね」

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