元スプリンターのすごすぎる「会社員人生」 ケンブリッジ飛鳥を五輪に導いた"仕掛け人"

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大前自身はこう分析している。

「振り返ると、陸上に携わりたいんだという気持ちが一貫していたんだと思います。どんなことにも、意志を持って取り組んできたのがよかった。ドームという会社はいろんな商材を持っているんですけど、僕は自分が得意とする『人の足を速くする』というスキルを生かすことができたんです。アスリートハウスから依頼されて、サッカーや野球の選手に走り方を教える機会がありました。それならアスリートハウスの所属になって、スピードトレーニングを教えるコーチになったらどうか、と会社から辞令が出たんです」

大前は1年ほど前にスポーツマーケティング部から異動。現在の肩書は、ドームアスリートハウス「パフォーマンスコーチ兼ドームトラッククラブコーチ」だ。大前の“陸上熱”が徐々に会社内に伝播して、いつしか自分の持っている武器を最大限に発揮できる立場になった。そして、アスリートハウスに通っていたケンブリッジが入社したことで、ドームトラッククラブがドカンと注目を集めることになる。会社からすれば、やらなくてもいいソフトだった「陸上」が、今はちょっとしたムーブメントになっているのだ。

「この1~2カ月は本当に激動で、すごいことが起きています。そのなかで仕事ができているのは幸せですね。社内でもそうですけど、社外でもドームトラッククラブの動きが注目されている。これは今までにない経験です」

大前はトラッククラブのコーチを務めるが、ケンブリッジのやり方に対して、ほとんど口を挟まないという。「彼が困っているときはシグナルがでるので、それを感じ取るだけ。僕のコーチとしての一番大切な仕事はそこですね。余計なことを言う必要がないんです。リオの可能性ですか? 彼の特徴は平常心なんですよ。リオの舞台でも変なプレッシャーはそれほど感じないと思います。メンタルを自分自身でコントロールできれば、出るでしょうね。ものすごく良いタイムが」と9秒台の可能性を口にした。

大前が生み出す新しいビジネス

ドームはNPBの読売ジャイアンツと2015~19年の5シーズンで総額50億円のユニフォーム契約を締結するなど、ビジネス上では野球、サッカーなどが主戦場になっている。売り上げ規模を考えると、陸上で勝負する意味はさほどなかった。しかし、大前の信念が、ドームに新たな事業を生み出そうとしている。

ケンブリッジが履いているスパイクはアンダーアーマーのものだが、国内ではまだ取り扱っていない。それがトラッククラブの活躍が追い風になり、スパイクを含めた陸上ギアの日本展開も準備が進んでいるという。すべては、大前のアクションから始まったといっても過言ではないだろう。念願の陸上関係の仕事をゲットした大前は、次なる野望もしっかりイメージしている。

「トラッククラブを中心にアカデミーのようなことができればいいなと思っています。それが地域貢献、社会貢献になって、ドームが掲げているスポーツ産業化に向けて、陸上からのアプローチができるようになるからです。また、個人的には、テレビの解説をやりたいんですよ。テレビ局の方に、『チャンスをください!』と言ったら、『自分から言ってくる人はいないですよ』と返されました。でも、待っていたらチャンスは逃げてしまいます。チャンスと運は、その辺に転がっている。そういう視点を持っているか、いないかの差で人生は変わってくると思いますよ」

リオで活躍が期待されるケンブリッジの陰に、こんなにアグレッシブな“仕掛け人”がいる。大前のポジティブで、常識の裏を突くようなすごい戦略は、あらゆるビジネスパーソンの参考になるだろう。(=敬称略=)

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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