月刊の鉄道雑誌『鉄道ピクトリアル』で知られる出版社、電気車研究会は、国土交通省鉄道局監修の年刊『鉄道要覧』を発行している。鉄道事業法と軌道法に基づく全ての鉄道・索道・軌道事業者の概要をまとめたものであり、未開業の事業者も掲載されている。
『鉄道要覧』の歴史は古く、大正期に刊行された『地方鉄道一覧』と『軌道一覧』が起源とされる。後に統合されて『地方鉄道軌道一覧』になり、戦後も『私鉄要覧』『民鉄要覧』と名前を変えながら刊行されてきた。もともとは国鉄を除く私鉄や公営事業者が掲載対象だったが、1987年4月の国鉄分割民営化に伴いJR7社も掲載されるようになり、名称も1990年度版から現在の『鉄道要覧』に変わった。
戦前の誌面に記された謎の鉄道
ページの構成は、北から南の順に各事業者の概要を記す形になっており、これは戦前から変わっていない。私の手元にある昭和初期の『地方鉄道軌道一覧』(1929年11月発行)でも、まず地方鉄道法(現在の鉄道事業法に相当)に基づく私鉄や公営鉄道が北海道から記されている。1ページ目は現在のJR千歳線などを運営していた北海道鉄道。399ページ目は後の沖縄戦で破壊され、事実上消滅した沖縄県営鉄道だ。
ところが、沖縄県営鉄道の次、400ページ目は東京府(現・東京都)の「東京日光電気鉄道」なる私鉄の概要が記されている。地方鉄道の項目はここで終わり、次のページからは軌道法に基づく路面電車などが、再び北海道から沖縄県の順で記されている。
東京府の他の私鉄や公営鉄道は95~110ページ目に記されており、なぜ東京日光電鉄だけが離れたページに記載されているのか。最初は『地方鉄道軌道一覧』の編集ミスを疑ったが、あるいは同社を巡る「すったもんだ」が、編集工程に影響したのかもしれない。
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