「ひたちなか海浜」赤字路線脱し驚きの延伸へ 派手な話題では再生できない「復活への軌跡」

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ただ、発足以来定期利用者を増やしてきたひたちなか海浜鉄道でも、今後は“現状維持”が精一杯になるだろうという見方が強い。

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現在の終点・阿字ヶ浦駅。ここから約3.1kmの延伸を計画している(写真:うげい / PIXTA)

ひたちなか市全体では人口が増えていても、湊線沿線、特に那珂湊以遠では過疎化が進んでおり、新たな定期利用者の掘り起こしはもはや限界に近い。今後、少子高齢化が一層進んでいくことを考慮すれば、「いかに現状の定期利用者を維持していくかが課題」(吉田社長)というわけだ。

そうした中での今回の「延伸計画」。現時点で総工費は65億円を見込むという。国からの支援を受ける予定とはいえ、それでも将来にわたってリスクを背負うことになるのは事実だ。特に延伸区間として予定される約3.1kmは、周囲に住宅がほとんどなく、ひたち海浜公園に沿って走る純然たる“観光路線”でもある。果たして勝算はあるのか。

「そもそも延伸区間はわずか3kmと短いですし、終点はひたち海浜公園の西口駐車場近くにできる予定。今以上にひたち海浜公園への観光に便利になるので、利用していただけると思います。さらに、終点にはバスターミナルを設けて交通の拠点にする予定ですし、ショッピングセンター等の建設予定もある。観光だけでなく地元の方も買い物などで利用していただけると考えています。ですから、現時点ではリスクというよりは地域全体に大きな効果が生まれる、勝算はアリ、ですね」(吉田社長)

ひたち海浜公園を訪れていたという女性観光客も、「湊線からだと公園はちょっと遠い。勝田からバスで行く方が便利ですから。でも延伸してくれたら行きやすくなるのでもっと遊びに来る機会が増えそうですね」と話してくれた。

派手な話題だけでは再生できない

どうやら、現状では延伸計画、成功の可能性は大いにありそうだ。

ただ、とは言ってもこの延伸計画が具体化したのは、定期利用の増加によって“足元”を固めたからこそ。観光に頼っていては季節ごとの浮き沈みも激しく、経営基盤は安定しない。テレビや新聞などの一般メディアはもちろんのこと、鉄道や旅の専門誌などでも観光路線としての取り組みや新駅誕生などの派手な話題ばかりが取り上げられがちだが、それらだけでは地方鉄道の再生は叶わない。

大都市近郊の中規模な都市であり、もともと産業が揃っていたという好条件の上に、地道な需要掘り起こしがあったからこそ、湊線は「延伸」という夢を見ることができている。それは他の地方鉄道が簡単に真似られることではない。吉田社長が「地域の実情に合わせた定期利用者掘り起こしが第一」と語るように、安易に観光列車などに飛びつかず、地道に定期利用者を増やしていくこと。それが地方鉄道再生の第一歩ということなのだろう。

鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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