「ひたちなか海浜」赤字路線脱し驚きの延伸へ 派手な話題では再生できない「復活への軌跡」

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また、湊線の沿線環境を見ても再生への条件は揃っていた。

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駅の周囲には住宅も多い。2014年には新しい駅も開業した(写真:kazu / PIXTA)

そもそもひたちなか市は、日立製作所の企業城下町として多くの工場が立地する工業都市。加えて那珂湊の水産業や干し芋の生産量が日本一という農業、さらに国営ひたち海浜公園という観光の目玉もある。

水戸、ひいては東京のベッドタウンという役割ももち、約15万人という人口は茨城県内で水戸市・つくば市・日立市に次ぐ第4位。湊線沿線では人口減も見られるが、市域全体ではわずかながら人口は増加傾向だ。ひたちなか市の財政状況も平成26(2014)年度決算での財政力指数が0.92と、地方都市にしては良好な部類に入る。

実際に湊線の沿線を眺めても、もちろん大半が農村地帯ではあるものの、駅の周囲には比較的新しい住宅が立ち並び、小さい子供がいそうな家もよく目についた。

ただただ田畑が広がり、住宅は数えるほどという地方鉄道と湊線の沿線環境を比べると、かなり事情が異なっているのだ。そして、ひたちなか海浜鉄道による湊線再生は、こうした恵まれた沿線環境を活かし、地域の潜在力を引き出す経営方針によって果たされた側面が大きい。

再建のカギは地道な営業だった

地方鉄道の再建というと、ややもすれば観光列車やアテンダントの活躍、地域ボランティアの活動などに注目が集まりがちだ。しかし、湊線を再生させたのはこうした取り組みではなく、地道な営業活動だったと吉田社長は振り返る。

「最近は観光列車が注目されていますが、正直なところ観光だけで経営が成り立つような鉄道はまずありません。鉄道経営の基本は毎日のように乗車してくださる定期利用のお客様。当社では定期券利用者一人を年間で720人分の利用として計算していますが、720人の観光客を集めるのがどれだけ大変か。いかに定期利用のお客様を増やしていくかが、経営再建においては極めて重要なんです」

定期利用者を増やすための取り組みはそれこそ地味なものばかりだ。ひとつは、学生向けの年間定期券の発行。勝田〜那珂湊間なら定期券代8万4000円で1年間利用できるというものだ。普通運賃ならば勝田〜那珂湊間の往復で700円だから、120日利用すれば元が取れるという大変お得な定期券。そして、この年間定期券を買ってもらうため、教育委員会を通じて沿線中学校や高校での説明会を行った。高校入学直前の中学3年生とその親を対象に年間定期券のPRを行っているという。

同様の説明会は沿線の企業対象にも行っている。自家用車による通勤と比べてのメリットを説明することで、少しでも通勤定期の購入者を増やそうというわけだ。自家用車で通勤する場合、ガソリン代など全てが通勤手当として支給されるケースは少ない。それに対して、鉄道での通勤なら全額支給されるし、さらに車も一家に一台あれば事足りるようになるのでコスト面で大きなメリットがある……。こうしたことを地道に説いて周ったのだ。

もちろん通勤・通学で利用しやすいようダイヤの改正も行った。通学時間帯の増便などに加えて、終電時間を大きく繰り下げて23時51分勝田発那珂湊行きを最終列車としたのだ。地方鉄道としてはかなり異例の遅さではあるが、これによって上野発22時15分の特急に乗っても終電に間に合うし、水戸市内で23時までお酒を飲んでも充分余裕がある。こうして通勤利用者の利便性を向上させ、利用者増加につなげていったというわけだ。

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