日本郵政によると、現在、日本郵政グループ4社(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の社員総数は約42万4000人で、このうち半分近い19万7000人が非正規の期間雇用社員。平均年収は正社員637万円に対し、期間雇用社員は232万円である。
給与の違いだけではない。期間雇用社員には年末年始勤務手当も、住居手当も、夏期・冬期休暇も、結婚休暇も、扶養手当もない。ボーナスも平均月収のわずか0.3倍。病気休暇も正社員が有給で年間90~180日なのに対し、期間雇用社員は無給で年間10日が認められているだけ。ことほどさように福利厚生は、ないないづくしである。
期間雇用社員の中には自ら短時間勤務を選び、比較的単純で責任の軽い仕事を任されている人もいるが、一方で三田さんのようにフルタイムで働き、残業もこなし、家計を支えている働き手も少なくない。取材するかぎり、一部の非正規労働者とはいえ、ここまで悪びれることなく、正社員と同様の仕事を担わせている職場にはあまり出合ったことがない。
関西人らしいと言えばいいのか、三田さんはどんなときも「おいらの周りの正社員はみんなええ人やで。悪いのは会社やねん」と冗談めかして付け加えることを忘れない。それでも、ふと深刻な表情で「おカネの問題というよりは、心の安心の問題。いつもなんか(不測の事態が)あったら、どないしよという不安はあります」と漏らす。
泣く泣く「自爆営業」する期間雇用社員も
不合理な格差に加え、郵政の現場には「自爆営業」と呼ばれる習慣がある。社員一人ひとりに課された、年賀はがきや暑中見舞はがき「かもめ~る」、ゆうパック商品などの販売ノルマを、自腹を切って達成するのだ。
2007年の郵政民営化前後、はがきなら多い人で1万枚超、ゆうパックは数十個単位のノルマはザラで、私は、国際郵便商品のノルマをこなすため韓国・ソウルのあるホテルに自分あての郵便物を送った後、自費でソウルまで飛んで受け取っていた職員や、ゆうパック商品十数万円分を自宅に持ち帰っては近所に配り歩いていた職員などのケースを数多く取材した。中には、「ノルマがこなせない」と母親に告げた後、自殺した職員もいた。
当時、郵政側にコメントを求めると、決まってこんな答えが返ってきたものだ。
「ノルマというものはない。ただ、営業目標はある。職員が自腹を切るような事例は把握していない。“自爆”という言葉が一部メディアで使われていることは知っているが、われわれとしてはそうした不適正営業はしないよう、各職場に通知している」
現在は、当時ほどあからさまなノルマの強制はなくなったとも言われるが、今もそうした習慣がなくなったわけではないし、雇い止めの不安からやむなく自爆する期間雇用社員はいくらでもいる。自爆について、三田さんは「自慢やないけど、1回もしたことありません。その代わり人の倍は営業せんといかん」という。一方で同僚の期間雇用社員が上司から「このままの評価やったら、次(次回の更新)、わかってるやろな」「ゆうパック、いくつ買うねん」と迫られて泣く泣く自爆する姿は何度も見てきた。
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