伊藤忠、ANA、電通が期待するミドリムシ バイオベンチャー「ユーグレナ」出雲社長に聞く

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ミドリムシを原料に使ったクッキーやカンパンなど

――ミドリムシをやるために就職した銀行は、たった1年で退職されています。エリートコースを自ら降りたのはなぜでしょうか。

「『いまやめなかったら絶対ミドリムシに戻ることはないな』って思ったんですよ。それぐらい銀行は居心地が良かった。私は銀行でお金の流れを勉強してから、将来ミドリムシをやろうと決意していたのになんというかこう、本末転倒で……。ミドリムシは私がやらなかったら、一生デビューできないかもしれない、と悩みました。

リスクを負っていない人間の言うことなんて誰も信じません。ミドリムシに両足を突っ込んでいなければ、30年もミドリムシの研究をしてきた人たちの心を動かすのは無理なんです。銀行をやめたことで、日本全国の研究者の方にも本気でミドリムシをやっていると信じてもらえるようになり、結果的にユーグレナの起業とミドリムシの大量培養に漕ぎ着くことができました」

最初は売れなかった

――起業後、一番苦労された経験はなんでしょうか?

「単純にミドリムシが売れなかったことです。ミドリムシのサプリメントを持って何社回ったかも分かりません。でも、『アオムシ、ダンゴムシだろ。そんなのいらん』と拒絶される日々。他社が採用してうまくいったらうちもやりたいっていう会社は“山ほど”ありましたよ。でもまだ一社もミドリムシ採用してないのに『うちがやりましょう』っていう会社は一社もありませんでした。それが何よりも大変でした。」

――それが売れるようになった。

「08年に伊藤忠商事が出資してくれたことが大きいです。変な話ですが、一度、大手企業後ろ盾を得てからは雪崩を打ったようにミドリムシを採用してくれるようになり、“オール日本”で研究も資金も支援していただきました。これは本当にありがたいことです。でも、今の日本の横並び主義はベンチャー企業や若い人にはとても居心地が悪い。それぐらい異常に最初の成功までのハードルが高すぎると思います」

――ユーグレナや出雲社長の5年後、10年後は?

「まず、一つ目は18年までに『緑汁』、海外での輸出販売、化粧品という三本柱をOEM以外の大きい柱に拡大して、それぞれが売上高の1割を占めるように収益に貢献するようにしたい。

二つ目はエネルギー環境事業の一丁目一番地であるミドリムシバイオジェット燃料の開発を成功させて、巨大なミドリムシメガプールによる生産に取り組むことです。

三つ目は、バングラデシュで100人とか200人ではなくて100万人単位の規模感で、栄養失調を減らしたい。ミドリムシカレーなのかミドリムシビスケットなのかは分かりませんけども、まずはそのやり方を完成させて、ゆくゆくはインドやアフリカなどバングラデシュ以外にも、ミドリムシ栄養失調根絶プログラムを広げていきたいと考えています。

この3つを5年後の2018年までに実現していきますので、それを支援者や株主のみなさまに楽しみに待っていただければ大変ありがたいなと思います」

(撮影:尾形 文繁)

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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