日本は「ヘリコプターマネー」の実験場に? 米国は原爆のように世紀の大実験をするのか
政治ではこの時代に基盤ができたのが現在の共和党だ。共和党保守派が量的金融緩和策(QE)を激しく批判するのは、貧富の差が広がり、決して全員が潤ったわけではないこの時代こそ、米国が欧州を抜き、世界の超大国になる上で重要だったと考えるからだ。
建国の精神を尊ぶ彼らは、金融をジャブジャブの状態に放置するのを恐れる。なぜならそれではキャピタリズムが持つ自主性やリスクへの挑戦というダイナミズムが失われるからだ。そして根源のハミルトンとジャクソンの対立が再現したのが、今年話題になった紙幣の顔の交代劇である。
今の米国紙幣の顔は、一人の例外を除き全員が過去の大統領だ。そこに女性を新たに加えることが昨年決まった。この時点で、ルー財務長官は10ドル札のハミルトンを交代させると発表したのである。同時期米国では10年ぶりの利上げがあり、金融保守派の勢いを感じたが、その決定に対し、大々的に反対運動を展開したのがバーナンキ前議長だった。
前議長は中央銀行の重要性を主張し、初代財務長官として大統領以外で唯一紙幣の顔になっているハミルトンは絶対に残すべきと訴えた。そして今年風向きが変わった。今度は、交代するのは中央銀行を廃止し、米国史上唯一国家財政の完全黒字化を達成したジャクソンになった。保守派は「敗れ」、再び米国の金融政策は、リベラル系ハト派が主導権を握り返したのだ。
世紀の実験は、「未来の平和」のためなのか?
今のワシントンのFRBには共和党政権から任命された理事はいない。共和党政権に任命され、もっとも最近まで在籍したのがバーナンキ前議長だ。そんななかトランプ氏は「イエレン議長は評価している。でも僕は共和党である以上、もし大統領になれば彼女を再任しないだろう」と表明した。
もちろんこの発言は、共和党保守派の協力を得るためのポーズだろう。
結局、オバマ政権は保守派に配慮してか、前述の紙幣の事案では、10ドル札のハミルトンの残留だけでなく、20ドル札において表面は黒人女性に交代させるものの、保守派を考慮し、交代するはずだったジャクソンを表面から裏面に残すという奇妙な折衷案を採用したのである。
この中途半端さはまさにオバマ政権の特徴である。しかし米国の二極化の現実であり、今後の金融政策も影響は受ける。
こんな米国に比べると、日本の政治は強い安倍政権が続く。日銀はマイナス金利導入後、黒田総裁にやや陰りを感じるが、総裁に対する国民の期待はまだ残っている。そして何より日本国民には、米国の保守派のような強い個性は見当たらない。つまり財政問題や人口動態などを踏まえ、世紀の実験のための環境は整っている。
個人的には、日本だけなら実験は成功する可能性もあるとみる。日本人は個の欲望を制御し、社会のバランスを重視する傾向があるからだ。でもそんなことが出来るのは日本だけだろう。その日本を見て世界が追随すれば大変なことになる。少なくともアダム・スミス以来の一般的なキャピタリズムは完全に終わるしかない。
それでも「戦争経済よりはよい」と考えるリベラル。一方で実験はかならず失敗する、結果歴史は繰り返されるだろうと準備する保守派。そんなこととは無縁に、今の市場は無邪気だ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら