「戦争の足音」が欧州の東から迫りつつある ロシアが核の一撃考えているとの観測も
しかし、リスクがひそかに高まっていると強く思う人は増えている。ロシアがクリミアを併合した2014年にNATOの連合軍最高指揮副官を務めていた英国の退役将軍サー・リチャード・シレフは今年5月になって、ロシアとの全面戦争が来年にも起こりかねないと明確に示唆する本を世に出した。
表向きは小説という体裁だが、シレフは私が行ったものを含む多くのインタビューで、ロシアとの全面戦争が勃発する可能性は非常に高いと強調している。同著作によると、明らかにウラジミール・プーチンがモデルである名無しのロシア大統領は、石油価格下落などに伴う国内の経済的苦境から国民の目をそらす目的で、ウクライナとNATO加盟国であるバルト3国の双方に対して同時に戦闘を開始する。
それにもかかわらず、西側諸国の首脳は自分たちの限られた軍事力を過大評価する。大陸側と島国の両方の政治家は、国内政治を気にかけ、戦争に対して全身全霊をかけるまでいかない。結果としてミスの連鎖となり、もしかすると致命的な結末に至るかもしれない。
こういったことが現実世界で起こるとの緊張感はなく、あっても遠い先だと考えられてきた。だが、プーチンはロシアの誇りを回復することを、その統治の中心に据え続けている。
ロシアは「ハイブリッド戦」に長けている
特にクリミアにおいて、ロシア政府は軍事評論家が「ハイブリッド戦」と呼ぶようになってきている手法に非常に長けていることを見せつけた。すなわち政治的に相手側を操作し、自国軍ではないと言い張れる部隊、特に階級章を外した部隊を利用して、正規軍に頼らずに成果を得ることだ。西側の複数の高官によると、これは、ロシアが西側諸国を大幅にリードしてきた分野なのである。
しかしながら、過去10年間に得られたもう一つの教訓は、いざロシアが全面攻撃を決断する場合、実際に2008年にグルジア、2014年にウクライナ、さらに昨年のシリアに対して行ったように、西側のアナリストの予想をはるかに上回る物量とスピードを駆使するということだ。
もちろん、問題なのは紛争を避けるための最善策を本当にわかっている人など、誰もいないということである。シレフや多くの他者、特に東側のより脅威にさらされているNATO諸国にとって、答えは抑止力の強化であり、その地域に十分な戦力を配置し、ロシアの通常戦力を用いたあらゆる侵略を困難にすることである。
上で述べたことのほとんどが、少なくともある程度までは、すでに現実のものとなっている。米国は2014年以降、欧州での軍備を劇的に強化し、高度に重装備な兵器を配置するだけでなく、戦車や特殊部隊などをロシアに隣接した前線の国々に送り込んでいる。