プレゼントに潜む「ジレンマ」の正体に迫る

相手のことを思いやるがためにドツボにはまってしまう?

では、もしもこの夫婦が利己的で、自分の損得しか考えなかったとしたらどうなっただろうか?

その場合には、「プレゼントのジレンマ」と同様の理由から、「購入しない」のが最適な行動になる。結果的に、お互いに大切なものを手放すことはなく、ジレンマも発生しない。

つまり、『賢者の贈り物』では、利己的に行動すればそもそもジレンマには陥らないにもかかわらず、利他的に相手のことを考えてしまうために、ドツボにはまってしまったのだ。

現実にも、相手のことを思うあまり「おせっかい」の度が過ぎて、非効率な結果を招いてしまうような例は、思い浮かぶのではないだろうか。

複雑な人間関係の中で、自分勝手に振る舞って損をする囚人のジレンマのような場合もあれば、逆に相手のことを考えすぎて失敗する「おせっかいのジレンマ」も起こりうる。

言うまでもなく、相手のことを思う気持ちは何にも代え難い。『賢者の贈り物』にしても、金銭的な損得から見ると大失敗してしまった夫婦に対し、その行動は「賢明」であったと結ばれている。これは、二人がこの出来事を通じてむしろ絆を深め合うことができた、と解釈できるからだろう。

しかし、ひょっとするとこの悲喜劇には、利他的に振る舞いさえすればすべてうまくいくほど世の中は単純ではないという隠れたメッセージが込められているのかもしれない(と思うのは、皮肉な経済学者くらいかもしれないが……)。

 

初出:2012.12.15「週刊東洋経済(韓国の強さは本物か)」

 

(担当者通信欄)

お互いにプレゼントを贈りあい利得を得る「利他的」なカップル、対して、両者損することなく利得を上げられる道があるにもかかわらずプレゼントを買わない「利己的」なカップル、そして、すれ違う『賢者の贈り物』の夫婦。利得がプラスかマイナスかは違えど、どのカップルの状況も「ナッシュ均衡」。なるべくしてそうなったのだ、というわけなのですね。

直近のクリスマスに関しては、プレゼントを用意するのも受け取るのも自分であったため、担当者がこれらのジレンマに陥ることはありませんでしたが、それが起こる余地すらない自己完結も、また味気なく。だいたいのことは自分ひとりで完結しない世の中、より「マシ」な状況を模索する経済学の知見を活かしていきたいところです!

さて、安田洋祐先生の「インセンティブの作法」連載第4回は2013年1月15日(火)発売の「週刊東洋経済(特集は、LINE大爆発!)」に掲載です!

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制度設計を鋭く分析、経済学初心者にも理解しやすい丁寧な解説でマーケットデザインに触れられる『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(安田洋祐編著、NTT出版、2010年)

 

ソロモン王のジレンマや企業が直面する問題への経済学的解決のヒントが提示される『日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー』(光文社、2012年)他のパートも豪華な執筆陣。現実問題に挑みながらも知的好奇心を刺激します!

 

 

 

 

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