被害額54円…「万引き老人」の悲しすぎる現実 「貧困」と「孤独」が支配する絶望社会とは?
哀しい話はコロッケ老人だけではない。自立支援施設 や介護施設で食べたいものが食べさせてもらえないために好物を万引きする老人。寝たきりの息子のために好物であるヨーグルトを万引きする老母。ご主人様から強要される万引きに逆らえない奴隷老婆。うつ病の娘を伴って、必要最低限の食べ物をくり返し万引きする70歳の母。同情の余地があるとはいえ、犯罪であることは間違いない。しかし、あわれにすぎる。
この本での最高額事件は、建て売り住宅を受注したので、その備品にIHクッキングヒーターとウォシュレット、計27万1600円をパクろうとした69歳の建築会社社長。次いで2位は、居酒屋を開店するために、IH炊飯ジャーなど計15万2200円を盗んだ市役所を定年退職した男。どちらもとんでもない話である。なんと、この市役所男は支払いを命じられて、あろうことか自慢気にゴールドカードで支払ったという。が、悲しいかな、身元を引き受けに来た妻に、警察署を出たところで離婚を宣言された。万引きは法に背くだけでなく、家族関係をも引き裂いてしまうこともあるのだ。
平成27(2015)年度における、65歳以上の高齢者万引き者の検挙数は8万件。警察は全件通報を指導しているが、実際には届けなしで処理されている件数が多く、実数はその数十倍から数百倍にも上るのではないかという。そりゃぁ、54円のコロッケまで届けていたら手間がかかってしかたがない。しかし、ほんとうにそうだとすると、信じられないくらいの件数だ。
かつて万引きは少年非行を代表する犯罪であったが、今は、老人や不良外国人、そして非貧困層の犯罪へと移行しつつあるということだ。実際、この四半世紀の間に、高齢者人口が2倍になっているのに対して、その万引きによる検挙者数は5倍以上になっている。じつに、ゆゆしき問題なのである。
万引きの手口も巧妙化してきている。なるほどなぁ、などと感心している場合ではないけれど、バーコードを張り替えるという裏技も横行しているそうだ。それも、見つからないように、元のバーコードシールと同じサイズのものをきちんと貼るとか、慣れていないレジ係を選ぶとか、と聞かされると、やはり感心してしまう。なかには、割引を利用するために、半額割引きシールをシートごと盗んだ老婆までいるらしい。あなどれん。
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