北朝鮮の農業に訪れた「劇的ハイテク化」の波 が、本格的な食糧危機脱出には程遠く…

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李学元技術員

柳所野菜専門協同農場で聞かれた声のように、北朝鮮の農業において現在重点的に推進されているのは、農作業の機械化と確実に成長・収穫できる品種の開発・育成だ。党大会で金党委員長もこの点に触れ、農業分野における主目的の一つとして取り上げていた。

ただ、これまで資金不足もあって農作業の機械化への投資が難しく、北朝鮮は立ち後れてきた。1990年代後半の経済難、いわゆる「苦難の行軍」時期で農業への投資が厳しく、さらに自然災害も加わって餓死者が出るほどの最悪の食糧不足に陥ったことは、記憶に新しい。

「苦難の行軍」時期から経済難も徐々に解消し、特に2010年代に入っては経済も緩やかに右肩上がりとなっている。そのため、北朝鮮はようやく、より高度な農業を実施できる状況になったのだ。

その水準は農業先進国の状況にははるかに及ばない。とはいえ、経済状況の改善を背景に、農業分野にも機械化を進めることができる状況になってそれを実行しているというのが現状である。前出の李技師長は「農機械の稼働率を高めると同時に、営農工程の機械化も大胆に進めて、党大会での決定事項(機械化の推進)を貫徹していく」と述べた。

国民への配給分は2010年以来の最低量に

改善に向けて進み出した北朝鮮農業だが、その足元はまだ固まっていないようでもある。前出のように、今秋の北朝鮮の穀物生産量を増産とみているFAOは、同時に、今年の食糧不足は4年ぶりの最大規模であり、その不足分の確保は進んでいないという指摘もしている。

前出VOA放送に出演したFAO世界情報・早期警報局のクリスティナ・コスレット東アジア担当官は、「昨年の生産量が大きく減少し、コメは前年比で26%減、トウモロコシは3%減、穀物不足分は69.4万トンと、2011年以来の最大規模になった」と述べた。しかも不足分の3%、2.3万トンしか現段階では確保されていないと言うのである。

そのため、北朝鮮政府による国民への配給分も、2016年1〜3月には1日当たり370グラム、4〜6月には360グラムと、2010年以来の最低量になっていると紹介している。ただ、小麦やジャガイモなどの生産量は増加しており、また市場でのコメの価格は1キログラム当たり4900〜5000ウオンと、この1〜2年安定したまま、と付け加えている。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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