北朝鮮の農業に訪れた「劇的ハイテク化」の波 が、本格的な食糧危機脱出には程遠く…

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では、実際に北朝鮮の農業従事者にとって、今年の状況はどうなのか。5月6日に36年ぶりの朝鮮労働党大会が開催され、農業についても金正恩党委員長が言及し、今後の方針が示されている。それを受け、現場では農作業のどの部分が重点的に行われているのだろうか。

「このままいけば、まずまずの収穫量が見込めそうだ」と、平壌市郊外にある柳所(リュソ)野菜専門協同農場の李学哲(リ・ハクチョル、40)技師長は見ている。李技師長は、「農業は昨年までに得られた教訓をもとに、どんな自然災害にも迅速に対処できるよう、被害防止策など対策を徹底して用意・実行できるようにしている」と述べ、今年の穀物生産量は昨年よりも増えそうだとみている。

「高レベルの集約農法ができる態勢がととのった」

李学哲技師長

特に、「科学的な農法を積極的に導入することに注力している」(李技師長)。北朝鮮ではこの4〜5年の間に、悩みの種だった干ばつによる水不足や病虫害に強い苗の開発に、それなりに取り組んできた。その成果が少しずつ出始め、「早生で大型の苗種などを開発し、稲栽培の技術工程をきちんと管理できるようにして、高レベルの集約農法・多収穫農法ができる態勢がととのった」と李技師長は打ち明ける。

今年の田植えも、これまで6月末までかけていた作業を2週間ほど早く終えて、苗がしっかり育つようにしたという。

柳所野菜専門協同農場は、文字通り、野菜やキノコの生産で定評がある農場だが、コメなどの穀物生産も行っている。現場ではさらに、病虫害と雑草の除去をどう効率的に進めるかも大きな課題だと、同農場の李学元(リ・ハクウォン、40)技術員は言う。

特に病虫害対策には誘蛾灯などの防虫機器・設備を開発・設置して、効果的な病虫の除去に成功しつつあると、李技術員は胸を張る。「昨年には1ヘクタール当たり4つの誘蛾灯を設置していたが、北朝鮮が開発した高電圧の誘蛾灯を設置した。この誘蛾灯1つ設置すれば、20ヘクタールをカバーできるものだ」と李技術員は述べる。また同農場では殺虫剤も独自開発中であり、これが成功すれば人員や動力費の省力化がさらに進むと付け加えた。

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