上場へと動く サントリーの思惑 独自性は維持できるのか

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ただ、上場はサントリーの強みでもある経営スタイルに影響を及ぼしかねない。同社は自由闊達な社風で、創業者鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」精神を重んじてきた。ビール事業は開始以来、07年まで赤字だったが、現在は収益を出すまでに成長。ウイスキーも20年以上市場が縮小していたが、ハイボールをヒットさせて復権を果たすなど、利益は二の次で粘り強く続けたことで成果を出した製品も多い。「上場企業では株主に許されないような経営手法を採ってきた」(業界関係者)のが奏功した面もある。

「パブリックカンパニー(上場企業)は難しい。やはりプライベートがいい」。10年、7カ月に及ぶ交渉の末、キリンホールディングスとの統合協議が決裂した直後、佐治社長はこう漏らしている。自主性を維持したいサントリーが3分の1以上の株式の保有を頑として譲らなかったことが破談の原因だった。

株式市場には厳しい目も

経営の自由度を保ちつつ、資金調達できる手段はないか。サントリーが出した答えはHDではなく、主力子会社である食品・飲料事業の上場だった。酒類事業よりも業界でのシェアが高い食品・飲料事業であれば、投資家からの評価も得やすく資金を集めやすい。株主からHD全体の経営に対して意見されることもないだろう。飲料・食品事業についても、「親会社のサントリーHDが高い株式比率を保持し、強い支配権を持つことになるのではないか」(ビール大手幹部)との見方が強い。

「欧州やアジアでは支配的株主がいる子会社の上場は珍しい話ではない」(親子上場の規制などに詳しい野村証券金融経済研究所の西山賢吾シニアストラテジスト)が、子会社上場には厳しい意見もある。役員の選定や株式が希薄化しかねない増資などを決定する際に、「サントリーHDの出資比率が高いと、飲料・食品事業の少数株主の声がないがしろにされかねない」(大手証券アナリスト)からだ。

東証は07年、子会社上場は「上場を短期間で非公開化するなど、子会社の株主の権利や利益を損なう企業行動が取られるおそれが指摘されている(中略)必ずしも望ましい資本政策とはいえない」とし、「株主の権利や利益への一層の配慮と投資者をはじめとする市場関係者に対する積極的なアカウンタビリティの遂行」を求めている。野村の西山シニアストラテジストは「複数の社外取締役の起用や、株主に経営方針を明確に伝えるなど、通常の上場企業以上に適切なガバナンス体制を築かないかぎり、投資家の懸念は払拭できない」と話す。

非上場の利点を生かし、日本有数の酒類・飲料企業となったサントリー。株式公開を通じて事業拡大を目指すが、上場がもたらすのは資金調達といううま味だけではない。

(週刊東洋経済 2012年12月29日-1月5日 新春合併特大号)

(撮影:梅谷秀司)

島田 知穂 東洋経済 記者
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