「地方移住」ブームに浮かれる面々にモノ申す すごい人のモデルケースは参考にならない

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速水:実は、魅力的な都市になり得るポテンシャルが石川県にはあるんです。金沢市でいちばんの中心街である片町の周域には、「金沢新天地商店街」という今はやりの飲み屋横丁や「21世紀美術館」「近江町市場」といった観光資源があります。

どれも中心街から歩いていけるところが魅力です。石川県の人は持ち家信仰が強いから、まだまだ郊外に住む人が多いけれど、こういった中心街に住む人が増えれば、さらに企業や人の集積が進んで、魅力的な都市へと発展するのではないでしょうか。

移住に迷ったときはコミュニティを訪ねよ

石川には魅力的な都市になり得るポテンシャルがあります

常見:いい企業も魅力的な街も揃っている石川の未来は明るい?

速水:ここから石川県の悪口を言いますね。僕は、ある程度の人口集積がある場所に関しては、うまくいくと思っていますが、そうでない場所は厳しいと思います。都市部以外でうまくいく可能性は極端に低くなる。

まあ田舎って、よそ者には厳しいですから。観光で成功しているといわれている金沢だって、トラブルは多いですよ。顕著なのはバス。観光客がバスの運転手に不満を持っている話は、よく耳にします。実際、どこのバス停に停車するか聞いても、ほとんどの運転手が対応してくれない。

常見:そういえば以前、炎上したケースもありましたね。

速水:移住者を増やして、街の魅力を高めたいのなら、よそ者を受け入れる体制を整えるのは必須ですよね。もちろん、これは石川県だけの問題じゃありません。

常見:移住者側もそういった地方特有の文化を知る必要がありますよね。僕も会社員時代に名古屋で働いていたときは、なじむのに1年かかりました。そのときに助けてくれたのが、東京から名古屋に転勤した他の移住者です。

速水:これは、地方移住の取材をしている中で明確に感じたことですけど、移住が成功しやすい土地は、移住者コミュニティが充実しているところなんです。実際、鎌倉や伊豆、島根の海士町(あまちょう)といった人気の移住先には移住者同士が集まれるお店や公共施設が充実していますね。

常見:「自分が活躍できそうな企業」「魅力的な街」「移住者のためのコミュニティ」、この3つが揃った土地を見つけられると、移住もうまくいきそうですね。地方もそうですが、東京にだって地方出身者が集まるお店や今回のワークショップなどがあります。移住に迷ったら、まずは地方出身者が集まりそうな場所に行くと何かヒントが得られるかもしれません。

速水氏の話を聞いていると、都市や移住に関する常識がガラガラと崩壊してくる。「住めば都」なんて言葉もあるわけだが、その都も、人々の暮らしも変化し続けているのだ。さて、我々は自分たちの街をどうしようか、そもそもこれからどこで、何をして生きるのか。考えてみよう。

 (構成:紐野 義貴)

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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