「地方移住」ブームに浮かれる面々にモノ申す すごい人のモデルケースは参考にならない

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常見:なるほど。しかし、ブームの中、話題になる人は、いつも真似できないような“すごい人”ばかりですよね。たとえば、今は高知県で活躍するブロガーのイケダハヤトさんなんかがそうです。移住によりその都市に注目が集まるというのもメリットなんだろうなと思います。彼は地方移住に関しては成功者かもしれませんが、果たして一般の人たちが真似できるのかと。

速水:雑誌に載っているような地方移住のモデルケースって、デザイナーとか建築家とかセレクトショップオーナーとか、そういう特殊な職業の人たちばかりでまったく参考にならない。実際に、都会での忙殺されるようなライフスタイルから逃げ出したい人たちは多いし、ゆとりを求めて、大幅に給料は減ったけど地方で暮らして楽しいという人たちもいることはいるんです。そういう人たちのケースも、実家の支援があったり、結局コネクションとかが必要だったりと、そうそうモデルケースにはできない。

常見:確かにそうですね。以前、若者の就職支援をする全国のジョブカフェを取材したことがありますが、東京でのサラリーマン経験が生きる仕事が地方にどれだけあるのか疑問に思いました。地方によって産業構造はさまざまです。だから、移住先や今の業種によっては、また0からキャリアを築かなければいけないリスクもある。

そういう意味で、地方移住を考える際は、地元にどんな産業や会社があるのかリサーチが必要です。たとえば、石川県だと建機大手のコマツが有名ですが、それ以外にも液晶ディスプレイのEIZO、I-Oデータやガソリンスタンドの洗車マシンのトップ企業があります。だから、地方移住を考えている人には、まず自分の住みたい土地にどんな産業や会社があって、そこで自分の能力や経験が生かせるかどうかを考える必要があります。

能力ではなく住むところが「年収」を決める

速水:僕はあえて常見さんとは別の移住のプロセスを提案します。それは、仕事が見つかったうえでの移住ではなく、とにかく先に引っ越してみるというやり方です。経済学者のエンリコ・モレッティが書いた『年収は「住むところ」で決まる』(プレジデント社)という本があります。

今までは、収入の格差は、職業選択やそれにつながる教育の格差から生まれるというのが世間の常識でした。でも、モレッティは本の中で「今日の先進国では、社会階層以上に居住地による格差のほうが大きくなっている」と言っています。たとえば、米国のデトロイトに住んでいるシステムエンジニアよりも、サンフランシスコに住んでいるウェイターの年収のほうが高いという状況が、米国では現実味を持ってきている。

デトロイトは自動車産業が壊滅的に落ち込んで、街全体の雇用力を失いました。一方で、サンフランシスコにはアップルやグーグルに代表されるようなIT分野のトップ企業が本社を構えています。一見、サンフランシスコで儲けている人はそういった企業の従業員だけに思えますが、モレッティはそれを否定している。

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