――では、生徒に何を学ばせようとしているのでしょうか。
「感動を知らない男はダメだ」ということでしょうか。そのために生徒にとってきついとも思える試練を課しています。
例えば先ほどの「大菩薩越え強歩大会」もその1つです。これは大菩薩峠という山梨と東京の間の山深い峠を、夜を徹して踏破します。
中学校1年生で20km、高校三年生で約40km、山なのでアップダウンも含めれば相当な距離です。これを朝の3時から10時まで、歩き続けるんです。そのために専用のOB団や医師団もスタンバイしていますし、先生も一緒に歩きます。もちろん、非常につらく、厳しい行事ですが、それを通して生徒同士やクラス、学校全体の団結が強まっていきます。
夏に館山で行う遠泳も同じ意図ですね。白のふんどしを締めて、最大2kmの距離を泳ぎます。もちろん、中には泳げない生徒もいるので、そういう生徒には背の立つ深さの水域で泳いでもらうようにしています。
正月には全校生徒で剣道・柔道などの「寒稽古」を行います。まだ夜も明けきらない早朝6時20分から鍛錬は始まります。
中学1年生からセンター試験を目前に控えた高校3年生まで、9割近くが道場にやってきます。義務化しているわけではないですが、クラスごとに参加率を競っているようです。だから、どんなに遠くに住んでいてもクラスの参加率を下げたくない一心で6時には学校にやってくる。要するに、「自由参加」と書いて「来い」と読むという話です(笑)。それくらい巣鴨生の団結は強い。
学生時代の感動体験が生徒を育てる
こうした試練を克服して養われていく、「集団力」というか、「組織としての団結」は社会人になれば必要不可欠になります。学生時代に「何かを努力して成し遂げた」という感動体験は生徒を強く育てます。
――親の反応はいかがでしょうか。
心配する母親もいるようです。それまでランドセルを背負っていた子どもが山歩きに挑戦するわけですから。もちろん、生徒の安全性には配慮していますから大丈夫ですけどね。
父親はむしろ好意的な意見が多い印象を受けます。やっぱり社会に出たら、理不尽なことや体力勝負だったりすることは多いですから。一人の社会人を育成するうえで、巣鴨のこうした行事を経験していれば、社会に出ても少々のことではへこたれない、強靭な男が出来上がると思います。
それに、今の世間の風潮からすると、「しっかりと面倒を見てくれる」というのは親にとって安心材料なのかもしれません。学校説明会の参加者数もここ数年で最高数になっています。塾の先生からは父親の参加率が他校と比べて高いと聞きます。