受け皿見当たらず、「もんじゅ」廃炉の危機 失格宣告受けた"夢の原子炉"の行方

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馳浩文部科学相(右)に勧告文を渡す田中俊一・原子力規制委員会委員長(2015年11月13日)

今後、具体的な受け皿探しは文科省の手に委ねられるが、当初期待された電力業界は「(冷却に使う)ナトリウム取り扱い技術の知見がない」(八木誠・電気事業連合会会長)などとして、火中の栗を拾うことには否定的。

核燃料サイクル政策を推進する経済産業省が検討会に参加していないなど、もんじゅの受け皿探しは「オールジャパン」からは程遠い状況だ。

にもかかわらず文科省は、「核燃料サイクル政策の中核を担う施設としてのもんじゅの役割はいささかも変わることはない」(同省幹部)として、もんじゅのあり方そのものの議論には踏み込まなかった。規制委の勧告文に記載された新たな運営主体が特定できなかった場合のもんじゅの扱いについても検討会では議論されなかった。

だが、こうした進め方には、原子力の専門家からも疑問の声が上がっている。

14年3月まで内閣府の原子力委員会委員長代理を務め、核燃料サイクル政策のあり方の見直しを進めた鈴木達治郎・長崎大学教授は、「研究開発にはさまざまな方向性があるにもかかわらず、高速増殖炉という特定の技術にこだわって何が何でも実用化させようとした。そうした硬直的な政策がもんじゅという計画をダメにした」との認識を示す。そのうえで「今回の勧告は高速増殖炉サイクルの研究開発全体を見直すうえでよい機会。今からでも見直しは遅くない」とも語る。

核燃料の再処理そのものの見直しに波及?

「もんじゅは運営主体変更ではなく、廃炉にすべき」と指摘するのは、原子力資料情報室の伴英幸共同代表だ。冷却材に火災事故の危険性が高いナトリウムを使用するなど、施設自体のリスクが大きいうえ、現政権の「エネルギー基本計画」で打ち出された、もんじゅを利用しての放射性廃棄物の減容化・有害度低減の取り組みも、「技術的な実現性可能性は乏しく無意味だ」と伴氏は批判する。

受け皿が見つからずに発電用原子炉としての役割を終え、廃炉に追い込まれた場合、何が起こるのか。

前出の伴氏は「核燃料の再処理そのものが必要なくなる」と解説する。というのは「現在進められつつある軽水炉(現行の原子炉)を活用したプルサーマル発電は、そこで発生した使用済みMOX燃料を再処理することを想定している。が、高速増殖炉が稼働しなければ、同燃料は再処理しても使い道がない。プルサーマルは高速増殖炉が稼働しなければ、経済的にも技術的にも意味を持たないからだ」(伴氏)という。

仮に高速増殖炉をやめるなら、使用済みMOX燃料をわざわざ再処理して長寿命の核物質を取り出し、プルトニウムなどと混ぜて新たなMOX燃料を作る必要もない。

そうしたことが知られると、核燃料サイクルが成り立つのか、政策自体に国民が疑問を抱くことになる。「そうなると困るので、もんじゅを続けるふりをしようとしている」と伴氏は解説する。もんじゅの存廃は、国の原子力政策を大きく左右するだろう。

「週刊東洋経済」6月4日号<5月30日発売>「ニュース最前線01」を転載) 

 

 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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